第8話 宿泊!筋肉式宿泊指導は被害甚大!?

協会の昼下がり。

受付嬢は書類をめくりながら、ビミョーに震えた声を出した。


「バルクさん、フィオナさん……

 本日の派遣任務は“宿泊支援”です」


バルク「宿泊? 寝るのを手伝うのか?」


フィオナ「あら♡ お泊まり指導ですの?」


受付嬢「違います。

 冒険者向けの“疲労回復指導”です。

 ……どうか、物を壊さない方向でお願いします……」


バルク「任せてくれ!」


フィオナ「心得ましたわ♡」


(受付嬢:もう嫌な予感しかしない)



冒険者宿「月影亭」――夜。

にぎわっていた酒場は、玄関が開いた瞬間、空気が固まった。


バルク「癒しを届けに来たぞ!」


フィオナ「愛と回復の支援に参りましたわ♡」


宿の主人(マスター)が青ざめる。


「ま、また来たのか……(※前回ベッドが消えた)」


バルク「安心しろ。今日は“優しさ”を意識している」


マスター(意識だけで何とかなるタイプじゃないだろ……)



渋々出てくる若手冒険者たち。


若手A「きょ、今日は疲労回復の指導だって聞いて……」


若手B「優しいらしいぞ……優しいなら……たぶん……」


若手C(いや絶対優しくないだろこれ)


バルクが自信満々でうなずく。


「まずは“ほぐし”からだ!」


若手A「ほぐし!? それは普通に助か――」


バキボキボキボキッ!!!


若手A「ぎょええええええ!?

 おい! なんか折れちゃいけない方向いったぞ!?」


フィオナが拍手。


「まぁ♡ バルク様、お上手!

 全身がとても“柔らかく”なってますわ」


若手B「柔らかくなったんじゃなくて壊れかけなんだよ!!」



フィオナが前に出て、柔らかく微笑む。


「わたくしは“心の癒し”を担当しますわね♡」


若手C「うわ、こっちの方が危ない!」


フィオナは若手Cの手を握った。


「今日、一番怖かったことを教えてくださる?」


若手C「あ、森で魔物に囲まれて……死ぬかと思って……」


フィオナ「まぁ……素敵♡」


若手C「素敵じゃねぇよ!!!」


フィオナ「恐怖を乗り越えた心は、美しいもの。

 もっと経験して、もっと強くなりましょう♡」


若手C「その“もっと”の部分が嫌なんだよ!!」



バルクがベッドを指差す。


「寝姿勢も大事だ。正しい姿勢を見せよう!」


ギシギシギシ……バキィ!!!


ベッドが粉砕された。


マスター「ちょっと待てぇぇぇぇ!!

 まだ説明途中だったろ!!?」


バルク「む……この程度で壊れるとは」


マスター「お前の体重と筋肉量で語るな!!」



フィオナが暖炉の火を見つめる。


「まぁ……火が弱いと眠りが浅くなりますわね♡」


薪をひとつくべる。


バルクもくべる。


二人「「もっと温かく!」」


ゴウウウウゥゥゥゥ!!!


若手B「いやいやいや! 温めすぎ! 火事寸前!!」



深夜。

宿は半壊すれすれ。

冒険者たちはヨレヨレ。


バルク「よし、今日もよく癒したな!」


フィオナ「ええ♡ とても“穏やかな夜”でしたわ」


若手A(身体は軽いけど痛い……)

若手B(心のMPがゼロ……)

若手C(寝姿勢でベッド壊す奴初めて見た……)


マスターは涙目で言う。


「……帰ってくれ……」



協会へ戻ると受付嬢が待っていた。


「ど、どうでした……“優しめ”にできました……?」


バルク「宿の者たちは皆、熱くなっていたぞ!」


フィオナ「ええ♡ とても“燃える夜”でしたわ♡」


受付嬢(それ火の意味で燃えてるよね……?)


後に届いた報告書にはこうある。


・「家具の補償費ください」

・「心の回復係も派遣してください」

・「暖炉の火力が狂ってます」

・「部屋が一つ消えました」


受付嬢「……なんで“疲労回復”で被害が増えるの……?」


こうして宿泊支援任務は、

**癒し:10% 破壊:90%**の結果となった。


次回――

第7話「同行!荷物持ちで壊滅の旅路」

荷物を“持つ”=“破壊”なのか……。

新たな恐怖が冒険者たちを襲う――!

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