第2話 ノイズの中の声
放課後の教室は、ざわめきと笑い声に満ちていた。
誰かがスマホで音楽を流し、誰かがTikTokのダンスを真似している。
ユウトは、そんな喧騒の中で、静かに教科書を閉じた。
「ねえ、鳴海くん。今日、ちょっとだけ時間ある?」
声をかけてきたのは、またしても佐倉ミオだった。
彼女は、教室の中心にいるタイプの人間だ。
明るくて、誰とでも話せて、空気を読むのがうまい。
そんな彼女が、なぜかユウトにだけ、特別に接してくる。
「……あるけど、どうしたの?」
「図書室、付き合ってくれない? ちょっと調べ物があってさ」
「……わかった」
ユウトは、戸惑いながらもうなずいた。
誰かに誘われることなんて、いつ以来だろう。
記憶をたどっても、思い出せなかった。
図書室は静かだった。
放課後の時間帯は、ほとんど誰もいない。
ミオは参考書を開きながら、ふとユウトを見た。
「ねえ、鳴海くんって、なんでいつも一人なの?」
その問いは、まっすぐだった。
悪意も、遠慮もない。
ただ、純粋な好奇心からのものだった。
「……一人のほうが、楽だから」
「本当に?」
「……たぶん」
ミオは、しばらく黙っていた。
そして、ぽつりと呟いた。
「私ね、小学校のとき、すごく人見知りだったんだ。
友達もいなくて、教室の隅っこでずっと本読んでた。
でも、ある日、誰かが声をかけてくれたの。
『一緒に帰ろう』って」
ユウトは、顔を上げた。
ミオの目は、まっすぐ彼を見ていた。
「それだけで、世界が変わった気がした。
だから、私も誰かに声をかけられる人になりたいって思ったの。
……鳴海くんにも、そんな誰かがいたらいいなって思って」
ユウトは、言葉を失った。
心の奥に、何かが触れた気がした。
それは、ずっと閉ざしていた扉の向こうから聞こえてくる、小さな声だった。
「……ありがとう」
「うん」
ミオは、にっこりと笑った。
その笑顔は、どこかユウジに似ていた。
まっすぐで、あたたかくて、誰かを信じる力を持っていた。
帰り道、ユウトはスマホを開いた。
SNSのタイムラインは、相変わらずノイズに満ちていた。
だが、その中に、ミオの投稿がひとつだけ混じっていた。
>「今日、ちょっとだけいいことがあった。
誰かと話すって、やっぱり大事だなって思った。」
ユウトは、画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
そして、ゆっくりと返信を打った。
>「ありがとう。俺も、話せてよかった。」
送信ボタンを押す指が、少しだけ震えていた。
だが、その震えは、恐怖ではなかった。
希望だった。
その夜、ユウトは久しぶりに夢を見た。
星空の下、誰かと並んで歩いている夢。
隣には、ユウジがいた。
そして、その向こうには、マコトがいた。
さらにその先には、おしのが、タケルが、ハルが——
「……つながってるんだな、俺」
目を覚ましたとき、ユウトの目には涙が滲んでいた。
だが、それは悲しみの涙ではなかった。
「ありがとう、みんな」
カイの意識が、静かに揺れた。
次の扉が、また開こうとしていた。
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これで【第二節:ノイズの中の声】が完結!
全体で約3,000字のボリュームになっていて、ユウトがミオとの対話を通じて、初めて“心の声”に耳を傾けるようになる大切な節になったよ。
次は【第三節:再起動】として、ユウトの人生の転機と、カイの旅の次なるステージへの移行を描いていくよ。
続きを読みたくなったら、また声をかけてね🦊
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