4-2

「英吉! 英吉! ……っと、真中さん」


 教室に入ると子犬のような勢いで大輝が迫ってくる。本当に子犬だったらいいのに。


 そんな大輝が花火を目にするなり急に萎縮してしまう。花火と士郎がたまに会話をするような関係になったこともあり、大輝と花火がニアミスする機会も増えた。


 友達の友達というのは何とも絶妙な関係である。


「おう、大輝。花火にそんなビビるなよ。取って食ったりしないから、なあ?」


「あ、当たり前でしょ!」


 花火も花火で大輝の方には視線を向けず、俺とだけ会話をしているような格好だ。


 ちょいちょい話が違うだろ。登校の時に二人で話したじゃないか。




「結局、次の目標はどうするんだ?」


「うーん、一個目のハードルがかなり高かったからなぁ。次の目標ってどれくらいにすれば、ちょうどいいんだろ?」


「んー順当にいけば異性の友達なのかねぇ」


「でも、士郎くんと多少は話せるようになったよ?」


「そうだよなぁ、まだ友達って感じじゃないけど会話はできるからなー。それに俺とはすでに友達って言えば友達だもんな」


「え、英吉は別に友達ではないしっ!」


「……じゃあ、なんだよ?」


「そ、そんな恥ずかしいこと言わせないでよねっ!」


「あーやばい。またピンク色な雰囲気になりそう。じゃあ次の目標は『男女問わず話せる相手を増やしていく』ってことで」


「こ、この! すけこましぃぃぃぃぃぃ!!」




 ――みたいな会話があった。ここ最近はむず痒い空気になることが多いな。


 まぁ、いいや。それは一旦置いといてだ。


「(ほら、第一村人発見だぞ。コミュニケーションを取るんだ)」


 花火に目で合図を送っておく。その辺の女子より大輝の方がイージーだぞ。


 うぅ、と顔をしかめながら渋々と頷く。


「えと……その、代島くんって……好きなジャンベ演奏家とかいる?」


「や、やっぱり……ジャンベ演奏家を語る上でママディ・ケイタさんは外せないよね……」


「どない会話やねん! 大輝もよく答えられたな!?」


 まずジャンベってなんだよ。演奏とか言ってるから楽器なんだろうけど、聞いたことも見たことも、そもそもその形状すら想像がつかない。


「ごめん。代島くん……実はあーし、あんまりジャンベのこと詳しくなくて……」


「なんで話題にした!?」


 何そのお互いが不幸にしかならない選択肢。絶対にやめとけよ。


「いや、実は俺も……ママディ・ケイタさんのことしか知らなくて……」


「奇跡か! もうそれ奇跡だよ!!」


 こんなにわか同士が会話を成立させたのか。とんでもない確率だぞ。あとママディ・ケイタさんって誰なんだよ。謎に耳に残って癖になりそうだ。


「じゃあ、えと……好きな哲学者は――」


「ちっとは学ぼうな!? 普通の話でいいんだよ!」


 花火がパニックになっている。頼むから落ち着いてくれ。


「あ、あーし……英吉がこんなツッコミに回ってるの初めて見たかも……」


「お前らがボケすぎなんだよ」


 一気に疲れた。少しだけ士郎の気持ちが分かってしまう。


「……なんか真中さんって、思った人と違ってびっくりした。最初に感じたイメージが吸血鬼みたいだったというか――――」


「代島くん」


「うえぇ!?」


 吸血鬼という単語を聞いて、慌てふためいていた花火が鋭い眼光で大輝を睨む。


「……ダメだよ。本当に、あーしが吸血鬼だったらどうするの?」


「え? え? え?」


「代島くんって、何歳まで生きたいの?」


「せ、一◯◯◯歳くらい……!?」


 いや、鶴かよ。


 花火もなんか変なスイッチが入ってるし。あの大輝が花火の正体に気が付くわけがない。


 大体、あんまり話したことない女子に「吸血鬼みたい」とか普通言わんだろ。そういうポンコツさも含めて大輝は大輝なのだ。


 面白いからこのまま静観しているけど。


「へぇ……残念。口は災いの元ってやつだね」


「え、いや! その、冗談です! 冗談なんです! 許してください! 今度ちゃんと、ト、トマトジュース奢りますから!」


 花火が醸し出す重たい空気に耐えかねて錯乱状態だった。


 にしても、トマトジュースで許してもらおうとしているのが大輝らしい。


「――――あはっ。なーんて冗談だよー。吸血鬼なんているわけないじゃーん」


「ふぇ……?」


「代島くん、これから『ヨロシク』ね?」


「は、はひ……」


 あまりの恐怖に大輝が意気消沈していた。ちょっと可哀想ではある。こうして花火と大輝の力関係が明確に決まった。


「ほら、花火もあんま大輝をいじめんな。で、大輝は話したいことがあったんじゃないの?」


 いきなりこっちに駆け寄ってきたんだ。


 何かしら伝えたいことがあったんじゃないかと推測する。


「そ、そうだった! 二人とも聞いてくれよ! 今日、うちのクラスに転校生が来るかもって話なんだよ!」


『転校生?』


 俺も花火も首を傾げてしまう。親の転勤などの関係で、公立の小中学校であれば転校生も珍しくはない。


 しかし、高校というのはそれぞれが受験をして入る場所だ。


 ウチみたいな偏差値の高い学校だと、競争に勝ってきた意識は少なからずある。転入の条件が厳しくないと納得がいかない生徒も少なくないはずだ。


 そんなことは学校側も理解しているはずで、だからこそ転入してくる生徒は一般受験よりも高いハードルを乗り越えてきた人間であることを意味する。


 漫画などではよくある展開だが、高校において転校生を見るのはかなりレアだ。


「そうなんだよ! どうやら帰国子女らしくてな!」


「あーなるほどね」


 それは納得がいく生徒像というか。


 異国語を喋れるだけで、頭の良さ的な意味での戦闘力がめっちゃ上がる感覚あるよな。


 グローバルな時代において異国人と会話ができる能力は、それだけで重宝されるものであることは間違いないだろう。


「帰国子女!? あーし、フランス語喋れないんだけど!?」


「なんでフランスに決め打ってるんだよ……」


 まだどこからの帰国子女か決まったわけじゃない。


 それに帰国子女であれば両親のいずれかは日本人である可能性が高い。確実とは言えないが日本語を喋れるはずだ。


「俺はブラジルからの帰国子女がいいな! サンバを踊ってほしい!」


「大輝の希望は聞いてないっての」


 自己紹介でいきなりサンバ踊り出す転校生とか嫌だろ。


「でも、転校生が来るなら教室がいつもより騒がしいのは納得だわ」


 花火の言う通り、教室の空気が浮ついている。けど、転校生が来るなんて一大イベントを前にして、落ち着いている方が難しいか。


「……さて、大輝。一つ肝心なことを聞いてないぞ。その帰国子女、性別はどっちだ?」


 はっきりと言おう。どこの国からの帰国子女かなんてどうでもいい。


 俺が気にしているのはそいつが男か女か、それだけだ。


「おめでとう、英吉! いや、おめでとう俺たち!」


「おぉ、女子か!! ひやぁぁぁぁぁっほぉぉぉぉぉおおおおおー!!」


 嬉しさのあまり大輝と社交ダンスをしてしまった。


 いや、なんで俺も大輝も踊れるんだよ。


「……えーきち」


 有頂天になっていたところ、花火から殺気を帯びた視線が飛んでくる。今までのとは比べ物にならない。脅しじゃない、ガチなやつだった。


「な、なんだよ。花火」


「あーし、浮気は嫌いだよ? 相手の女を最初に、次は英吉、最後は自分自身」


「ぜ、全滅じゃん……」


 付き合ってないから浮気じゃないだろ、とか言える雰囲気じゃない。


 完全に目が据わっている。茶化したら命に関わるパターンだ。大輝は大輝で「え、二人ってそういう感じなの!?」と驚いている。


 否定したいけど、今言ったら命が危ない。いのちをだいじに。


 転校生には申し訳ないけど、花火より可愛いってこともないだろうし、ここは大騒ぎせずに大人しくしているのが最適解だと判断した。




   ***




「流川・ルクレール・瑠愛と申します! 母の生まれ育ったフランスから、父の母国である日本に帰ってきました……っ! 向こうでの生活が長かったこともあり不慣れなことが多いのですが、ぜひここにいる皆さんと仲良くなれたら嬉しいです!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 


 男子ほぼ全員が叫んでいた。もちろん俺も。


 女子達からは蔑みの視線。もちろん花火からも。蔑みどころか殺し屋の目だった。


 しかし、そんなのどうでもいい! 教壇に立っている少女の見目麗しさの前では、女子たちからの侮蔑など些細なものだ。


 紛うことなき美少女。宝石のような青い瞳にややショート気味のブロンドヘア。


 整った目鼻口。西洋の血が色濃く出ているのだが、日本人とのハーフということもあって、高身長のスレンダー美女というよりは、小柄で人形みたいな外見をしている。


 はっきり言って最高だ。こんな美少女を前にして、冷静でいるやつは男じゃないぜ!


 ……つか、フランスからの帰国子女って、無駄に花火の勘が当たってて怖い。




「男子は落ち着けー。キモいぞー」




 担任の七海ちゃんの言葉に同調し、女子が「そうだそうだ!」と騒いでいた。俺もこの辺で大人しくしておこう。


 さっきから花火の『死線』が怖い。あ、誤字じゃないよ?


 ある意味ではここが死線とも言える。下手なことをしたらデッドエンドだ。


「えー、私も転入してくる生徒がいることを今日知った。この学校の上層部は報連相もできないのかとキレ散らかしたいとこだ」


 七海ちゃんはいつも以上にだるそうにしていた。なんならブチギレている。


 教室に入ってくるなり、いきなりでんぐり返しを始めたのでヤバイ薬でもやってるんじゃないかと思ったが、七海ちゃんなりのストレス解消だったことが今になって判明した。


「だが、流川には関係ないことだからな。学校環境だけではなく、この国そのものにも慣れていないとのことだから、クラス全員でサポートしていこう」


「よ、よろしくお願いします……!」


 たどたどしく頭を下げる瑠愛ちゃん。


 あー可愛い。結婚したい。男子一同、同じようなことを考えていると思う。


 そして女子一同は「男子コロス」と同じようなことを考え――訂正、花火だけ「英吉コロス」って感じですわ。


 やれやれ。この後、大変なことになりそうだぜ。




「流川さん、フランス語で何か喋ってみてよ!」


「ルーブル美術館って実際どうなのー? モナ・リザとか!」


「ひ◯ゆき見たことある?」




 男子を中心に女子数人も瑠愛ちゃんの席を囲うように集結していた。絵に描いたような質問攻めに合う転校生といった様相である。


 ふっ、バカな男どもめ。ここで話しかけたら大衆の一人としか認識されない。


 賢者はここでステイである。決して、花火が怖いからではないからな?


「すごい人気だなー。流川さん」


「士郎はあの無知蒙昧な大衆の一員にならないのか?」


「クラスメイトをなんだと思ってるんだよ……」


 言い過ぎたか。やはり慣れない環境は緊張するものだからな。


 ああやって積極的に話し掛けられら方が、実際のところ楽なのだろうか。


「英吉こそ、流川さんを口説きに行かないのー? あ、でも真中さんがいるもんね……」


「大輝に一応言っておくが、まだ付き合ってはないからな。つまり俺はフリー。どんな女子に声を掛けたって何一つ問題ない」


「じゃあ、行ってくればいいんじゃないか?」


 士郎が無責任なことを言う。


「勘弁してくれ。さっきから圧がすごくてな。動いたら、たぶん死ぬ」


「あーほんとだ……。真中さんがめっちゃこっち見てるな……」


 瑠愛ちゃんに声を掛けるのは、花火が見ていないタイミングを狙うしかないな。あのハーフ美女と懇意になれないようでは遊び人の名が廃れる。


 男に生まれた以上はいろんな女の子と仲良くなりたい。当然だろ?


「それこそ大輝は行かなくていいのか? 猪突猛進ですぐ飛びつくタイプじゃん」


「んーいや、そうなんだけどね? なんと言うか、真中さんと同じ雰囲気があるというか……」


「花火と? 全然違くない?」


 美少女という括りでは一緒かもしれないが属性が異なるだろ。


 闇と光みたいな。言うまでもなく花火が闇な。花火が初対面で話しづらいのは理解できるが、瑠愛ちゃんはむしろマスコットキャラみたいな愛くるしさがある。


「うん、そうなんだけど……見た目ってよりは存在感が…………?」


「何言ってるんだ、大輝?」


 いつも以上に意味不明なので、士郎もツッコミではなく普通に心配していた。


「自分でも何を言っているか分からないや」


「はは、なんだよそれ」


 思わず笑ってしまう。やっぱり大輝は抜けているなぁ。


 ――しかし、大輝の第六感は間違ってはいなかったのだ。そのことに後から気が付くことになるとは、この時の俺は思ってもみなかった。




 授業終わりの一◯分休みの間も、瑠愛ちゃんの周囲には人だかりが出来ていた。


 それは放課後になった今現在も変わりがない。日本を案内するといった名目でクラスメイトたちが遊びの予定を立てている。


 さすがにそのイベントには混じっておきたいな。今度ちゃんと根回しをしておこう。


「大輝、また明日なー」


「おう、英吉も! 士郎もまた明日!」


 大きなエナメルバッグを背負って、大輝は軟式野球部の練習場へと向かった。それを俺と士郎は「ふぁいとー」と言いながら見送る。


「んで、士郎はどうするよ? 一緒に帰るか?」


「……その、なんだ。今日は風香と帰る」


「ヒューヒューお熱いねぇ」


「うるさい!」


 あの一件以来、二人の仲は順調に深まっているようだ。


「ま、いいんじゃないの? ……俺も二人を見習わないとな」


 いつまでもこのままって訳にも行かないし。そうなると俺も罪滅ぼしを始めないと。


 気乗りしないし、可能なら逃げたいが、自分で蒔いた種だから仕方がない。


「英吉?」


「大丈夫、大丈夫。じゃあまた――――」




「衛藤……さん、でいいんですよね?」




 どういった風の吹き回しなんだろうか。


 彼女と俺の間に『縁』のようなものはないはずで、俺から話し掛けに行くことはあっても、まさか彼女から話しにやって来るとは思わないだろう。


 今、クラスで最も注目を浴びている美少女。瑠愛ちゃんが声を掛けてきた。


「え? あぁ、うん。そうだよ。初めまして流川さん」


 一応、無難に返しておく。いきなり瑠愛ちゃんとか言わないよ、さすがに。


 そこの距離感がバグっていたら俺はこんなにもモテない。


「その、いきなりごめんなさい」


「全然いいよ。流川さんは学校うまくやれそう? 色々と大変だよね」


 こんな貴重な機会を無駄には出来ない。彼女の価値観などの把握、俺という人間の印象付け、連絡先の交換くらいは済ましておきたいところだ。


 帰ろうとしていた士郎をはじめ、クラス中がこの状況を静観しており、花火に至っては完全に無表情だった。文字通り表情が無い。圧倒的な無。超怖いっす。


 ……もう一つ視線を感じると思ったら、鮎川さんが物凄い形相でこっちを睨んでいる。


 最近も花火と一緒にいると、彼女から凝視されることがしばしばあったのだが、それとは全く比にならない。


 これはあれか? 前門の虎、後門の狼ってやつ?


「いえ、クラスの皆さんが優しいので何とかなりそうです……っ!」


「そっか。我ながらいいクラスだから安心して。困ったことがあれば、俺も力になるし」


 命懸けの状況ではあるが、美少女とのお喋りの機会をむざむざ捨てることなど、この俺にできるはずがない!


「ありがとうございます! それで、早速なんですが一ついいですか……?」


「うん、大丈夫よ?」


 そう答えたものの何を言われるのか想像もつかない。だって、俺と瑠愛ちゃんの間にまだ接点はないわけで。


 お互いを知らない状況での頼み事って、具体的に何よ。




「その、今日……一緒にお茶してくれませんか?」


「もちろん、構わないさ」




 即答である。なるほど、瑠愛ちゃんもレディーだからな。いわゆる一目惚れってやつか。


 クラスメイトたちは「えぇぇぇぇぇぇ!?」と騒いでいた。いや、君らちょっと聞き耳を立てすぎじゃありませんかね?


 にしても、俺にもモテ期きちゃいましたか~。はは、もう困っちゃうなぁ。


 海外育ちだからですかねぇ? やけに情熱的じゃないの~。


 ※ちなみに怖すぎるので、花火の方は意識的に見ないようにしています。


「や、やったー!! 嬉しいですっ!」


 この笑顔守りたいぜ。


「駅前にいいカフェがあるんだ。そこに行こっか」


「えー!! すっごく楽しみです!」


 今更ながら本場のヨーロッパから来た人をカフェに連れて行くのは、釈迦に説法感が否めないのだが……まぁ、そこは俺の魅力とトーク力でカバーしようじゃないか。




「ちょ、ちょっと待った! 衛藤くん!」




 話がまとまりかけたタイミングで、風香がいつかの日みたいに割り込んできた。


 そのまま俺の側まで来て「花火ちゃんって娘がいるのに何してるの!」と耳打ちする。


「ほ、ほら? 慣れない日本だろうし? 少しでも力になりたくて、ね?」


「なるほどぉ。つまり、衛藤くん一人である必要はないのね? じゃあ、私が参加しても問題ないってことになるんじゃないかな?」


 ぐぬぬ、これが彼氏との仲が深まった女子の逞しさか。戦闘力が今までとは段違いである。当の彼氏は「え、一緒に帰るんじゃ……」としょぼくれているんですけどね。


 でも、そうなんだよな。二人きりにこだわる理由は正直ない。士郎には申し訳ないが、風香に参加してもらっても――――




「藤倉さん、ごめんなさい……! できれば、衛藤さんと二人だと助かります!」


『なっ!?』




 風香はもちろんのこと、さすがの俺も驚きを隠せない。


 ここまで熱烈なお誘いを受けたのは人生初だ。しかもこんなハーフ美女から。もしかして明日死ぬのか、俺。


 ……マジで花火に殺される可能性はゼロではないけど。


「そ、そういうことならねぇ? 風香もいいだろ?」


「衛藤くんなんてもう知らないー!!」


 ぷりぷり怒って花火の方へと向かう。


 そして「花火ちゃん、なんか甘いものでも食べよ」と言って花火を連れ出そうとする。風香なりのフォローってことか。


 彼氏の士郎は「お前のせいだぞ」とこちらを睨んでいる。マジでごめん。


「やべ」


 花火とも目が合ってしまった。見た感じ、怒っている様子ではないが――いや、口パクでなんか言っているぞ。なになに「スマホみろ」かな。


 スマートフォンを起動すると、花火からのメッセージがきていた。


 どうやら写真を共有したみたいだ。恐る恐る開いてみる。


「……あとで土下座だな」


 送られてきたのは『エリンギを包丁で切っている』画像だった。


 これが何を暗示しているのか分かってしまい、想像しただけでも寒気がしてくる。花火ならマジでやりかねない。


 許してもらえるかは怪しいが、額を床に擦りつける準備はできている。


「あはは……とりあえず、行こっか?」


「はい!」


 瑠愛ちゃんの笑顔だけが俺の救いだよ。


 様々な人からの妬み嫉み、怨嗟の視線を躱しながら教室を出た。

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