キオクノカケラ
白崎ユナ
断片0.5【クダケタココロ】
私、白神ツバキは高校2年。
両親を中学受験の前日に事故で亡くし、
叔母の家で暮らしていた。
高校へ上がるタイミングで、姉のシヅキとふたり、
元の家に戻った。
――そして、シヅキは突然消えた。
◇
シヅキがいなくなった日のことは、
今でも鮮明に覚えている。
12月4日。冬にしては珍しくよく晴れた朝。
私は玄関で、姉と並んで登校の準備をしていた。
髪には、昨日シヅキからもらった
小さな髪飾り。
胸が弾むほど嬉しくて、
鏡を見るたびに少し笑ってしまった。
12月3日――私たちの誕生日。
ヘッドホンをプレゼントしたとき、
シヅキは笑顔で、
「ツバキは私の自慢の妹よ?」
と言って抱きしめてきた。
私は顔を赤くして
「……何急に//」
と言ったけど、本当はすごく嬉しかった。
……それが、二人で笑い合った最後の日だなんて。
◇
12月4日の朝。
玄関の奥――物置の方から、シヅキの声がした。
『…誰!? 誰なの…!?』
その声は、どこか“録音のように平坦”で、
いつもの姉の声とは微妙に違って聞こえた。
胸がぎゅっと締めつけられる。
「……おねぇちゃん?」
声を頼りに走り寄った物置部屋には、
姉の姿はなかった。
そこにあったのは――
昨日渡したヘッドホンと、シヅキのスマホだけ。
「おねぇちゃん!? どこなの……!?」
叫んでも、返ってきたのは静寂だけだった。
震える指で警察に電話し、
必死に状況を伝えたはずなのに、内容はほとんど覚えていない。
◇
一週間後、学校に戻った私は、
自分がどこに立っているのかも曖昧で、
まともに前を向けなかった。
耳に入ってきたのは、ひそひそ声。
「……シヅキ、失踪したんだって」
「警察来てたしな」
「もしかしてツバキがさぁ…」
バカみたいな笑い声。
胸の奥がぐしゃっと潰れそうになる。
一方で、シヅキの友達だろうか、
優しい声をかけてくれる子もいた。
「大丈夫? ツバキ…」
「シヅキ、心配だよね」
本当は「ありがとう」と言いたかった。
でも――言えなかった。
その優しさが、
逆に胸の奥の孤独を強くえぐった。
そこで私は初めて気づいた。
私には、
“自分の友達”なんていなかったんだ、と。
私はいつも、
姉が作った輪の“隅”にいるだけだった。
姉が笑えば混ざれたし、
姉が話せば自然に隣にいられた。
だけど――
姉がいなくなった瞬間、
私は輪からこぼれ落ちた。
声をかけてくれる人がいても、
もう返せなかった。
世界の中で、自分だけが
色を失っていくようだった。
学校にはいられず、私は早退して帰宅した。
◇
部屋に戻ると、
誕生日に渡したヘッドホンと、
シヅキのスマホを抱え込む。
両親が亡くなった日のこと。
姉と笑い合った時間。
たくさんの思い出が一気に溢れ、
私は声を押し殺して泣いた。
「お母さん……お父さん……」
「……お姉ちゃん……」
泣き疲れ、
いつの間にか眠ってしまったらしい。
でも、眠っても逃げられなかった。
また、あの夢を見る。
『……キ……』
誰かが呼ぶ声。
姉の声にも似ているようで、
違う気もする。
思い出せそうで、思い出せない。
『……バキ……』
胸の奥がざわつく。
「やめて……」
『ツバキ……』
「……やめてよぉ‼︎」
最悪な目覚めで、また一日が始まる。
◇
姉が消えてから、私は徐々に
“時間の流れ”を感じなくなっていった。
朝だと思ったら夕方で、
気づけば次の日になっている。
生活すべてが霧の中みたいだった。
叔母は完全に放っていたわけじゃない。
時々来て、服を替えてくれたり、
布団を整えてくれたり、
小さなケーキを冷蔵庫に入れてくれたりもした。
ケーキ……?
ふと、カレンダーに目をやる。
12月4日――。
あの日から、ちょうど一年が経ったことを、
ようやく知る。
外の世界だけが先に進んでいく中、
私の心の時間は、あの日で止まったままだ。
私は知る。
心は、もう限界だった。
そして――
あの“呼ぶ声”だけが、
まだどこかで私を見ている。
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