秋分 繋がりつつある、すべての不穏

 辺りには彼岸花が美しく咲いている。今年の夏は特に暑かったから咲く時期がずれるかと思ったんだけど一斉に咲き始めた。

 彼岸花を見ているとなんだか不思議な気持ちになる。とてもきれいな花だと思う、見ていていつまでも見つめてしまう。葉っぱがなくて細長い茎に大きな花がついている不思議な花。折れることなく、どうやってその花の重みを支えているんだろうと思う。

 真っ赤な花、秋に咲く花。とても綺麗なんだけど、一本では咲かずに群がっていて、そこら中が真っ赤に染まっているように見える。

 それがなんだかとても厳かで、恐ろしいものに見えた。彼岸花は奇麗だから好きなんだけど、怖い。かつて僕はそう思っていて、僕の考えをきっとハク様は読み取っていたのだろう。彼岸花が咲いていた頃は僕に頻繁に会いに来てくれていた。


「彼岸花の根には毒がある。触っても平気だけれど食べてはいけない」


 毒のある花があるなんて初めて知ったからびっくりした。毒キノコを食べて痙攣が止まらなかったことがあったからキノコは食べないようにしていたけれど。もちろん花を食べるなんて事はしなかった、でもこんなにキレイな花に毒なんてあるのかと驚いた。


「今日は彼岸だ、死者を偲び思い出を語り合いながら安らかに眠れるようにと祈りを捧げる。美しくも神々しく毒々しい、彼岸花はこの時期にぴったりなんだ」


 言われてみれば確かに。死者の周りによく似合うと思う。茎と花だけ、葉っぱがないその姿はまるで誰かが立っているかのようにも見えた。




 人ならざる者たちの襲撃が増えてきた。この村はいよいよ彼らに見つかりじわじわと真綿で首を絞められている状態だ。

 神力があまりないといっても皆それぞれ戦に慣れた男たちもいる、何とか凌いでいるが冬までの時間稼ぎをされているに過ぎない。しかも、最近は体調不良起こす人が増えてきた。

 それは主に男たちだった。女たちをこき使い、自分たちは米やかき集めた野菜を食べているが女達には芋ぐらいしか与えていない。力をつけてもらおうと子供たちにも握り飯などを積極的に与えているみたいだけど、この間とうとう子供の一人が吐いてしまってそのまま倒れた。高い熱を出して口から泡を吹いている。ただごとではないその様子にさすがに女たちも慌てて看病をしていたが、その子はそのまま亡くなってしまった。

 何故、何か流行病なのだろうかと皆困り果てていた。男たちも全体的に具合の悪い人が多い、同じことが原因ではないかとだんだんみんな不安になってきている。


 兄上殿は全くそんな様子はなく、鍛錬が足りないからだと冷たく言い放つだけで特に何かをするわけではない。

 体調不良が鍛錬不足なわけないと、もう誰もが気づいていた。こんな状況になってもまだ力の強い者が偉くて、体を鍛えれば健康だと言い張るのかと。男たちの間にも兄上殿に対する不信感が募っているのがわかる。あの人は強くなることでしか認めてもらえない生き方をしてきたから仕方がないのかもしれないけど、状況に合わせて大局を見ないと……。


 何とかしてくれと家を訪ねる者もちらほら出てきた。僕は何も言葉を返さないけれど、もう我慢できずに部屋に入ってきてしまいそうな勢いだ。それでも入ってこないのは、死にたくないから。

 そのうち人ならざる者が何か病を振りまいているのではないかと言う話が出始めた。そういう力を持ったものがいるかどうか僕にもわからない、人ならざる者が一体どういうものなのか。

 実は当の本人である僕自身もよくわかっていないんだ。僕以外のそういった存在には会ったことがなかったし、確かに普通の人間とは違うことができるけれどそこまでおかしなことができるかどうかはわからない。実際何の力もない僕はとても弱くて、猿や烏にも負けてしまう位だった。強い人、弱い人がいるように僕らも様々。


 夜になって、僕はぼんやりと考える。今まで起きてきたこと、本当にいろんなことを。でも結局行き着くのはハク様との思い出だ。あの人が僕に教えてくれたこと、話した内容一字一句すべてを覚えている。

 何気ない会話だったけど、今思い返してみるとそれは全て僕に生きるためのすべを教えてくれていたような気がする。彼岸花に毒があると言っていたのもそうだ、もしかしたらお腹を空かせて僕はいろいろな植物を食べていたかもしれない。

 二十四節季を教えてくれたのも季節の移り変わりを知ることで、夏が近づけば暑さの対策を、冬が近づいたら冬ごもりの準備を事前にすることができる。僕はその日暮らしだったから二歩三歩先のことを考えて生きていなかった。

 今を生きるのも素晴らしいことだけど、その先を生きるための試行錯誤することをあの人から教えてもらった。


 そう考えるとこの村の人たちはその試行錯誤が明らかに足りない。わからないこと、面倒な事は全て他人に押し付けて長に押し付けて。言われたことだけをやって、できなかったらそれを指示した者が悪いと反省をしない。どうして自分たちが生きづらくなる生き方をするんだろうと不思議でしょうがない。

 最近は日中でも涼しくなってきて、夜は冷え込む。肌寒くなると自然と心もどこかしんみりしてしまう。ハク様の最後、看取ってあげたかった。言葉を交わしてお話ししたかったな。

 でも、言いたい事はあの人はすぐにその場で言ってきたような気がする。それなら最後に言葉を交わしても、あの人が言うのはきっと「ありがとう」だったんじゃないかなって思う。僕が感謝される事は何もしていないけれど、あの人はよく僕にお礼を言っていた。そこには確かに感謝の思いが込められていた。それなのに、あんな最後を。いやでも、助けを求めなかったようだからそれを望んだのかもしれない。一人でひっそりと最後を迎えることを。


 弱り切っていてやせ細って。血を吐いて……。


 血を吐いた……病気だったんだろうか、いや違う気がする。なんだろう、ハク様が亡くなったことが悲しくて考えなかったけど。そういえばあの人はどうして死んでしまったんだ。刀で斬られたわけではない、大量の血を吐いていた。

 そしてこの村を見届けると言っていたのに村を出てしまったカイキ殿。たぶん予想外のことが起きてこの村を出ざるを得なかったんだ。彼に味方はいない、助けてもらえない状況に陥ってしまったとしたら。

 怪我をしたとか、具合が悪くなったとか。村の男たちにあらわれている症状がカイキ殿にはもっと早く出ていたとしたら。


 背筋が凍るような思いだった。今まで村で起きたこと、ハク様の最後、村を出たカイキ殿、具合が悪くなっていない兄上殿。これらはすべて繋がっているんじゃないのか?

 春、野菜の苗がうまく育たなかった。野菜が育たなかったらこのままでは食べる物がなくなってしまうと近隣の村から野菜を分けてもらっていた。何もおかしな事はなかったと思う、ちゃんと畑を丁寧に耕して水をあげてそれでも根付かなかった。何故か育たなかった。何故、育たなかった?

 もしこの野菜がうまく育たなかったのがあいつの仕業だとしたら一体何をしたのだろう。育たない、枯らすことができるとしたら……毒を振りまいたのではないだろうか。つまりあいつは春、いやもっと前からこの村に入りこんでいたんだ。

 そうやって畑の苗が育たなかったら野菜が育たない、村人たちは米作りに集中する。野菜がなくても最悪米があれば生きていける。そして米が育った。どうして米を枯らさなかったのか?

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