奇妙な地下空間
「いや。そこまで犯罪に染まった者なら己の行いを罪と思っていない。そんな人間がどんな風に悔い改めるのか興味がありまして。更生したふりをして外に出るという輩がいないのかなと」
「……なるほど。それでしたら、しばらくここの滞在を許可します。帰る時は来た道を戻ってください」
そう言って司祭はその場を去った。
「よろしいのですか」
教会に戻り地下への扉を閉じると教徒の一人が尋ねる。
「住んでいる場所でこの話を広めてもらおうと思って案内したが。探りを入れてきている、危険だ。このまま扉は閉じておきなさい」
「はい」
「こりゃ怪しまれて閉じ込められたかな?」
長話をして時間稼ぎをしようとしたが、触れてほしくないところを突いたらしい。
「じゃ、許可も貰ったから調べてみますか」
メイから話を聞いた時から胡散臭いと思っていた。「横暴な振る舞いの者も、最後は泣きながら己の罪を悔いる」という、そこがまずおかしい。
「何が最後なんだ。祈り終わる頃って意味での最後? それとも人生の最後かな?」
そう言ってウィルは叫ぶ男に近寄る。男は助けてくれ、とせがんできた。
「いきなり暴れないでくれよ、協力しなきゃ脱出できない。まあ、僕は君に勝てるけど」
のほほんと言うウィルに男は一瞬何かを叫びかけたが、わかったとだけ言った。
(おとなしくして従うふりってところか。わかりやすいなあ)
まあいいか、と思いつつ男の拘束を解いて一応確認した。
「ここはどういう場所なんだ。何故あんなに嫌がっていた?」
「……俺らワルの間じゃ有名だ。この教団に捕まったら帰ってこれない。なんとか逃げ出した奴が何人かいたが、皆死んじまった。泣きたくないのに涙が止まらねえんだとよ」
「何で?」
「さあな、呪いでも受けたんだろ」
神様は呪わないだろ、と思いながら改めて像を見つめる。どこの宗教も拝むのは似たようなものだなと思っていたが。
「ん? これ、表面……」
何故黒いのかと思ったが、どうやら煤を塗ってあるらしい。触ろうとしたがやめた。子供の頃綺麗な虫がいたので祖母に見せようと思った。捕まえようとしたら祖父にこっぴどく叱られたのだ。
「じいちゃんに踵落としくらって怒られたっけ。知らないのに無暗に触るな、って」
後に毒を持つ虫だとわかった。きれいなものは誘き寄せるための罠か、派手に見せて自分は危ないから近づくなと警告しているかだ。
「で、テメエは何でここにいる」
「不思議なものを見せて巣穴に帰らせることで、ここの素晴らしさを語ってほしかったみたいだ。でも危険因子として口封じかな。入り口塞がれただろうね」
皆そそくさと出て行こうとするのが気になった。長居をしたくないのかな、と思って話を引き延ばそうとしたが探りを入れているとバレてしまったらしい。
「どうするつもりだよ!」
「脱出するよ、もちろん」
「迷路みたいに分かれ道がたくさんあったし、すげえ深い所じゃねえか!」
「地下空洞を掘るなら浅いはずだ、人力で作るには限界があるよ。それに空気の循環をするために浅い場所じゃないと無理だ」
「ぐるぐるまわってきたから深さがわかんないだけなのか」
「意外と地上は近いさ。さてと」
入り口は施錠の他にも見張りがいるかもしれない。こっそり出るのは無理だ。
「こっそりが無理だと派手な手しかないんだよなあ」
そう呟き、ウィルはごそごそと服の中に手を突っ込んだ。
ドガァン! という爆音と振動が起きた。何ごとかと慌てる信者や教徒。祈りの時間の最中だったので大混乱だ。
「静粛に。神の御前――」
「司祭様!煙が!」
言われて振り返ると香部屋から黒い煙が立ち込めている。きゃあ、と誰かが悲鳴をあげると全員悲鳴をあげながら教会を出ようとする。出入り口に人が殺到し逆に動けなくなってしまった。
(まさか、地下を爆破? あの男何をしたのだ)
一般人が爆薬を持っているなどありえない。教徒に避難誘導を任せて急いで別の入り口に走る。香部屋以外にもう一つあるのだ、緊急用通路が。それは司祭しか知らない。
階段を降り切ったところで、「あ、どうも」と声をかけてきたのはウィルだった。てっきり出入り口を爆破してそこの近くにいると思っていたのに。
「爆発した所にいたら落盤で埋もれるだろ。緊急時の脱出経路くらいあるだろうなと思ったけど本当にあった」
地下は散々な状態だ。爆風や飛んで来た岩でぐちゃぐちゃになっている。ぼんやりと光っていた緑の光はほとんど見えない。
「大事な場所に他人を招くなら身体検査くらいしなよ。黒色火薬持ってるかもしれないだろ」
「ねえよ普通は!」
思わず男は叫んだ。何をしているのかわからず見ていただけなのだが、耳塞いで口開けてねと言われて言うとおりにしたらいきなり爆発した。
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