「   」回目の初恋 逃げ続けたら辿り着いたのは海では無く駅でした。

冬乃一華

第一部

恋の定義

第0話 プロローグ


 桜の花びらが舞い、眼前を横切る度に香りが鼻腔を刺激する。


 俺は春という季節が好きじゃない。


 何処か世間は浮かれたような空気になるし、新しい出会いなんていう面倒なイベントのおまけ付きだ。


『初恋の定義、分かる?』


 ふと、アイツのセリフが脳裏を過ぎる。


「分からない。俺には」


 そして……

 毎年、この季節になれば思い出す。

 大人のような言動も、一度も見せる事の無かった笑顔も。


「……退屈だな。人生ってさ」


 出会いが突然なら、別れも突然だった。


 亡くなったとか、転校したとか。

 そんな重い話じゃない。


 ただ、アイツは自分の事を一切話さなかった。

 もの凄く警戒心が強いヤツだったから。


 名字だって知らないし、連絡先や家だって当然知らない。


 会えるのは、一か所だけ。

 初めて出会った近所の小さな公園だけだった。


 そして、出会ってから2カ月が経った頃。


 突然、アイツは姿を現さなくなった。


 何も告げる事無く、最初から居なかったかのように。


 どういう意図で、アイツは俺と関わっていたのか。


 何も分からないんだ。


「この感情を……お前なら、どう呼ぶんだろうな」


 俺のそっと呟いた戯言は、風に乗って消えて行った。

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