第12話 隣国王太子の荒療治(前)

一時空白になっており、申し訳ありませんでした。

――――

 ザイフもこの冬の間、だてにタリクのお供をしていたわけではなかったらしい。


 カヤよりも前に先触れに走り、この半年で顔見知りになっていたわたしの宮の侍女、侍従たちにわたしが怪我をしたことを知らせてくれ、医官の手配などをするように依頼してくれていた。


 タリクに抱かれて自分の宮殿に戻った時、すでにベッドの準備は万端で、枕元には顔なじみの医官が待機していた。


 カヤに先導されたタリクはまっすぐにわたしのベッドに進み、そっと壊れ物を置くように私をベッドの上に降ろした。


「タリシャ王女。左腕のほか、痛むところはない?」


 そっと右腕を取ると、静かに質問をしてくる。


「歩いていないから何ともだけど……ないわ、たぶん。左腕だけだと思う」


 わたしの答えを聞くと、医官を振り返って医官のためのスペースを開けた。


「見たところ、左腕には裂傷がある。わが国には、止血によい薬草があるのだが、差し支えなければ使ってもらえぬか?」


「なんと、草の国の止血草ですな?止血のみならず傷の回復も早く、痕も残らなくなるというあの有名な薬草。使わせてもらえるなら、大変ありがたいことです。それではまずは、殿下の状態を拝見いたします」


 医官はわたしの左腕を取って曲げたり伸ばしたり、子細に観察を行った。

 しばらくしてそっと左腕をベッドの上に置くと、微笑んで話し始めた。


「裂傷のほか、打ち身もございますな。変な話、皮膚が裂けて血が体外に出たことは不幸中の幸いでございました。裂けずに皮膚の中に溜まったままでしたら、中を圧迫し相当な痛みと腫れになっておりましたでしょう」


 そこで言葉を区切って、タリクのほうを一瞥する。


「ですが、裂傷は、余分な血を体外に出せるメリットはございますが、傷跡が残ったり、傷口の感染が非常に心配でもあり、幸いとは断言しにくい側面もございます。なのに今日は、草の国の止血草をご提供いただけるとのこと。これは、裂傷が引き起こす負の側面をすべて打ち消します。殿下、非常に巡り合わせがようございましたな」


 子供のころから体調を崩すたび、面倒を見てくれた医官が微笑んでいってくれることなのだから、傷の痛みは強くても本当に問題はないのだろう、と安心した。


 そこに。取次の侍女がそっと進み出て、医官に言付けを伝えた。


「医官殿。左大公宮から、至急来てほしいとの連絡が」


「要は、誰からじゃ」


「左大公世子殿下かと」


 ……ダリオン。リェンは医官に見てもらわないといけないほどの怪我、してたかしら?


「左大公家が、王女殿下より優先されるわけがなかろう!若造め!」


 しかし、医官はぴしゃりと拒絶した。そして私に向き直ると、穏やかに微笑む。


「王女殿下。七日間は痛むでしょう。ですが、安静にしていれば問題ありません。そしてカヤ殿、やや出血が多かったから、普段のお食事に血を養う栄養のものを取り入れて養生に努めるよう気を配りなされ。毎日一回、止血草の取り換えは必要だから……」


「医官殿。止血草の取り扱いは、わが草の国王家は慣れております。余がやってもよろしいか?」


 わたしやカヤに医療上の指示を飛ばす医官に、タリクが割り込んだ。


「おお、おお、王太子殿下が直々に?いや、恐れ多いですが、噂によれば、草の国王家の方々の裂傷の手当の手技に間違いありませんな」


「では、余にお任せいただきたく。……それから左大公家がお急ぎなら、今のこの消毒と止血草の手当も、余がやりますが?」


「そうじゃな……」


 医官は、しばらく思案するかのように立派なあごひげをしごく。


 王女と左大公家の序列の違いで、割り込みには即座に拒絶したが、ここに自分と同じレベルの手技で手当てができる人間がいるとなったら、やはり急ぎで来てほしいという要望は無下にできないだろう。


「医官殿。わたしは、それで構いませんわ」


 わたしも、タリクができるというなら、医官が左大公家――それはおそらくリェンのためだろう――にお譲りするのは、もう別にどうでもよかった。


「ふぅむ。さようか。では、手当は草の国の王太子殿下にお願いしても?」


「はい」


 タリクは、重々しくうなずいた。


「では、このおいぼれは手当はしなくとも、今後は昼過ぎに王女殿下の体調を見に来るようにしようかの」


 そうつぶやくと、わたしの瞳を覗き込んだ。


「よいか。体と心の声によく耳を澄ますのじゃよ。そしてその声に素直に従うのじゃ」


 医官は、とわたしの頭をやさしくぽんぽん、軽くたたいた。


 そして、タリクに向き直ると、真剣な口調で告げた。


「では、頼みましたぞ、王太子殿下」

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