第18話「辺境の大地が聖地になるとき」

 枯れていく作物、死んでいく大地。そして、僕の腕の中で苦しむ最愛の人。

 もう、迷っている時間はなかった。


「僕が、僕たちの家を、アッシュを、全部守る!」


 僕は力強く宣言すると、苦しむアッシュをそっと地面に横たえ、立ち上がった。

 そして、天を覆う呪いの黒雲を、まっすぐに見据える。

 目を閉じ、意識を集中させた。僕の力のすべてを、この一点に。


 創生の力よ、僕に応えろ!


 僕の願いに応えるように、全身から今までで最も強大な金色の光が解き放たれた。それはもはや光というよりは、黄金のエネルギーそのものだった。

 僕の足元から、黄金の光が津波のように大地を駆け巡っていく。

 呪いの雨で黒く染まった大地が、光に触れた瞬間から元の豊かな土へと戻っていく。枯れた草木は再び芽吹き、一斉に緑を取り戻していく。


 光の波は僕たちの畑を越え、森を越え、辺境の土地全体を覆い尽くした。

 空に昇った光は、呪いの黒雲と激しく衝突する。黒い瘴気は黄金の光に飲み込まれ、浄化されていく。


 やがて、空を覆っていた黒雲は完全に消え去り、代わりに黄金色に輝く雲が空を覆った。

 そして、その雲から降り注いできたのは、恵みの光の雨だった。

 呪いの雨によって枯れた作物は、光の雨を浴びて一斉に蘇り、以前よりもさらに生命力豊かに輝き始める。

 大地そのものが、清らかな力に満ちていく。

 もう、どんな呪いや瘴気も寄せ付けない、絶対的な守護の力を持つ『聖域』へ。

 僕の力が、この辺境の地を、聖地へと生まれ変わらせた瞬間だった。


 大地が完全に浄化されると、僕の体の光もすっと収まった。

 僕は急いでアッシュの元へ駆け寄る。

 彼の体から溢れていた黒い瘴気は完全に消え去り、その呼吸は穏やかになっていた。呪いの暴走は、完全に抑え込まれていた。

 僕が大地そのものを浄化したことで、呪いの力の源が断たれたのだ。


「……フィン」


 ゆっくりと目を開けたアッシュが、僕の名前を呼んだ。

 その瞳には、驚きと、そして深い愛情が満ちていた。

 僕は彼のそばに膝をつき、その手をぎゅっと握りしめた。


「大丈夫、アッシュ。もう、大丈夫だから」

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