第17話「暴走する呪いと黒い雨」
王都からの召喚を、僕たちは丁重に、しかし断固として拒否した。僕の力は王家や国家のものではなく、この土地で生きるためのものだと。
その返事が王都に届いた数日後、事件は起こった。
その日は朝から空がどんよりと曇り、嫌な空気が漂っていた。
畑仕事をしていたアッシュが、突然、うめき声を上げて膝から崩れ落ちた。
「アッシュ!?」
駆け寄ると、彼の体から再び黒い瘴気が立ち上っていた。一度は僕の力で浄化したはずの呪いが、以前とは比べ物にならないほどの勢いで、彼の体を蝕み始めていたのだ。
「ぐ……ぁ……! なぜだ……呪いが……!」
「しっかりして!」
僕が必死に創生の力を注ぎ込もうとするが、呪いの力が強すぎて、まるで弾かれてしまう。
これは、ただの再発じゃない。何者かが、意図的に呪いを暴走させている。
「……長兄め……!」
アッシュが苦痛に顔を歪めながら、吐き捨てるように言った。
長兄リヒャルトは、僕たちが召喚に応じないと知るや、次なる手を打っていたのだ。彼は闇市場を通じて高名な闇の魔術師を雇い、アッシュが持つ聖剣の呪いを遠隔で暴走させる、古代の呪具を使用させたのだった。
聖剣に残る魔王の残滓に干渉し、その憎悪を増幅させる、卑劣極まりない手段だった。
アッシュの体から溢れ出した制御不能な呪いの瘴気は、黒い雲となって空へと昇っていく。そして、辺境の地一帯を覆い尽くすと、ぽつり、ぽつりと冷たい雫を落とし始めた。
それは、ただの雨ではなかった。
触れた草木は瞬時に枯れ、生命力を奪われて黒く変色していく。大地は活力を失い、死の色に染まっていく。
死をもたらす、『呪いの雨』だった。
僕が大切に育ててきた畑の野菜たちも、次々と元気をなくし、枯れていく。
僕たちの家、僕たちの楽園が、黒い雨によって少しずつ死んでいく。
「……フィン……逃げろ……俺から、離れろ……!」
意識を失いかける中で、アッシュは最後の力を振り絞って僕を遠ざけようとする。
でも、僕が逃げるわけがなかった。
この場所も、そして何より、僕の愛する人も、全てが壊されようとしている。
怒りと、悲しみと、そして絶対に守り抜くという強い決意が、僕の心の中で燃え上がっていた。
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