いもけんピ!〜妹を名乗る不審な剣と底辺社畜だった俺〜
透亜九郎
Act1:Welcome Back / エタノシア
Ep.001:終点です
街が燃える。
泣き叫ぶ人々の悲鳴と破壊の轟音。
戦争なのだ仕方がないと、目の前の光景を飲み込もうとするがやはり苦い。心が苦しい。
——この地獄を作り出したのは俺だというのに。
そういう命令を受けて行動しているから仕方ないと言えば仕方がない。しかしやるせなくなる。
前まではそんなこと、なかったのに。
「ここにいたか化け物」
「応、俺はここだよ英雄さま」
俺の前に立った黒髪の偉丈夫からは並々ならぬ覇気が迸って、そこにいるだけなのに圧倒的な存在感を放っている。
「それで、お前さんが俺を殺してくれるのかい? 英雄さま——グレン•グラフォード」
「無論。その為にここに来たのだ。憐れな化け物を破壊する為に」
言って、二刀を構えるグレン。
対する俺は白銀の剣を力無く奴に向ける。
「生憎とタイムリミットでね。一発でケリ、つけようや」
「抜き打ちか。受けて立つ」
ジリ、ジリ。
肌を焼く炎を感じながら改めて構える。
互いに
「「!!」」
——時が来た。
「ぜぇぇっあぁぁぁぁぁッ!!」
「こおぉぉぉぉおぉぉぁッ!!」
一閃。
交差した二人。互いの渾身の一振り。
そしてその結末は——
「……ありがとよ、英雄」
——俺の
***
——がたん、ごとん。
どうやら寝てしまっていたらしい。
またあの夢を見た。
グレンとかいう奴と一騎討ちして、負けて死ぬ夢。
最近はなりを潜めていたはずなのに。
俺——剣持アキト以外は誰も乗っていない、月曜の下り始発電車に揺られながら再び目を瞑る。
思い返すのはここ数日の出来事。
金曜にクビになり、土曜に財布を無くし、日曜にフラれた。三連続クリティカルでHPゼロ。そりゃ逃げたくもなる。
碌でもない三日間を経て俺は決めた。
着の身着のままで少し旅に出よう、と。
もちろん死にに行くとかじゃないから。
向かっているのは山だけれども。
ただ、大自然に癒されたいのだ。
俺の人生はまるで上手くいかないことばかり。
父親は早くに亡くし、母親は去年過労で倒れそのまま帰らぬ人に。
そして天涯孤独になった俺はその無能から会社をクビになった。
碌でもない人生。
「帰りたい、なぁ……」
あの頃へ帰りたい。家族がみんな生きていた在りし日。
俺の帰るべき場所。——魂の場所。
そこに、帰りたい。
キィーーーーーーーーーッ! ガタンッ!
甲高い鉄が擦れる音、大きな揺れ。そして停車。
緊急停止だろうか。よくあることだ。
目を瞑ったまま座席の端に頭をもたれて待つ事数分。
まるで動く気配はなく、車掌アナウンスもない。
どういうことだ?
疑問に思って目を開こうとした時、突然車内に機械染みた女性の声が響いた。
『終点、終点。エタノシアです。おかえりなさいませ』
「はっ?」
ぱちり、目を開ける。
電車の扉が開いている。奥には何の変哲もない駅のホームが見える。
でも終点? あと数駅はある筈なのに。
それにエタノシア駅なんて聞いた事がない。
……最近改名したとか? いやまさかね。
考えている内に何かしらアクションがあるかと思いきや、扉は開きっぱなしでアナウンスもなし。電車が動く気配もない。
これはもう降りるしかないのだろうか。
不思議なことに、扉の外へと出たい欲求が沸々と湧いてくる。
まるで誰かに呼ばれているようで、足が勝手に前へ出た。
不思議な感覚に囚われながらも、そうして電車の扉を潜ると——
「……は?」
——そこは明らかに森の中だった。
扉越しに見えていたホームは影も形もない。
当然電車に戻ろうと振り返るが、そこに扉はなく、ひたすら木々が立ち並んでいた。
「いやいやいや、まてまてまて」
状況が飲み込めない。
いや飲み込めてたまるか。
電車を降りたら森で?
その電車どころか線路すら見当たりません?
そしてここはどこ?
「どおなってんだよぉ!?」
戸惑いが叫びとなって口から溢れた。
困惑の叫びが虚しく森にこだまする。
「なんだよここぉ……昔読んだ怖い話みたいじゃんか」
思い出して震える。
あれは確か、知らない駅で降りてそこで奇怪な人間に襲われる異界の話だった。
まさか。もしかして自分も異界に……?
そんな突拍子もない考えを巡らせていると、森の奥で金属同士が触れ合うような音がした。
次の瞬間、茂みが弾け、軍服の三人が剣を構えて飛び出してきた。
「貴様何者だ!ここで何をしている!」
その内一人が高圧的に聞いてくる。
またも理解できない状況。
いよいよもって例の怖い話みたいだ。
「ま、待て! 俺は気付いたらここにいただけなんだ!」
「ここは我が帝国領内の立入禁止区域だ! 信じられるわけがなかろう!」
三人は各々剣を構えて俺に切先を向けてくる。
立入禁止区域もなにもだから知らないんだって。
「さては他国の間者だな? 生かしておけん!」
「ちょっ?!」
先頭に立っていた一人が剣を振り翳して俺に迫ってきたものだから、堪らず走り出す。
とにかく逃げないと命が危ないことだけは理解できた。
「待て!」
「待てるか!!」
俺の碌でもない人生は、その碌でもなさを加速させて俺を追い立てて来たのだった。
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