平均値の幼馴染と、妹の容赦ない現実
嫉妬と諦めの間で
白石華恋は、自分の名前のように可憐な外見をしているわけでも、沙耶香のように光り輝く才能を持っているわけでもなかった。成績は学年平均点のど真ん中。運動能力も、特筆すべきことは何もない。玲司が夢中になっているゲームですら、彼女はチュートリアルを終えて満足する程度で、センスの欠片もなかった。
「また、負けたんだね、玲司は」
玲司が期末テストで惨敗し、今度はマラソン大会で敗北を喫した日。華恋は、校舎裏で玲司が沙耶香に打ちのめされる姿を見ていた。玲司が沙耶香の気を引くために頑張る姿は、華恋の胸をチクチクと刺す。
(天堂さん、綺麗だ。頭も良くて、スポーツもできて、きっと何をやっても完璧なんだろうな…)
玲司の隣に立つ沙耶香は、まるで規格外の存在だった。玲司の視線は常にその規格外の天才に向けられている。そして、華恋は思う。自分は、沙耶香とは比べるべくもない、平均値の凡人だ。
その夜、自分の部屋で参考書を広げていると、高校1年生の妹、白石光(ひかる)がドアを開けた。光は姉より現実的で、口を開けば核心を突いてくるタイプだ。
「お姉ちゃん、また笹野先輩のこと考えてるんでしょ」
「ち、違うわよ!勉強中よ!」
華恋が慌てて本に視線を戻すが、光は構わず近づいてくる。
「別にいいじゃん。そんなに笹野先輩が好きなら、自分から誘えば良いじゃん。なんでいつも遠くから見て、足踏みしてるのよ、お姉ちゃん」
ぐうの音も出なかった。妹の言葉は、いつも真実を伴う。
凡人の論理と妹の反論
「だって…無理よ。私、玲司の幼馴染なだけで、別に特別じゃないし。それに、玲司が夢中なのは天堂さんよ?あんな完璧な人に、私が勝てるわけないじゃない」
華恋は、つい本音を漏らした。玲司が沙耶香にアタックしては敗北を繰り返しているのを見ていると、自分は挑戦する以前に諦めてしまうのだ。
「玲司は、天堂さんに負けても次があるからって挑んでるのよ?私なんて、天堂さんより容姿も、勉強も、運動も、ゲームのセンスも、全部劣っているの。結果が最初からわかってる戦いなんて、現実的じゃないわ」
玲司の失敗を反面教師にしているようだが、それは単なる逃げだった。
光はフンと鼻を鳴らした。
「ふーん。でもさ、笹野先輩は、結果が伴わなかったとしても次があるってアタックしてるんでしょ?」
「そうだけど…」
「なら、お姉ちゃんもアタックすれば良いじゃん。別に、結果が伴わなかったとしても次があるんだから。笹野先輩みたいに、玉砕覚悟で気持ちをぶつけないと、何も始まらないんじゃないの?」
光の言葉は、玲司が沙耶香に挑む熱意と重なる。玲司は「勝利」のために挑戦しているが、光が言う「アタック」は、気持ちを伝えることそのものが目的だ。
(結果が出なくても、次がある…か)
頭では理解できても、華恋の心は決心がつかない。沙耶香のように眩しい存在に、どうして自分のような凡人が立ち向かえるだろうか。
突然の招集
その時、玲司からメッセージアプリの通知が鳴り響いた。
『華恋!緊急招集!俺の家に来い!作戦会議だ!』
メッセージには、興奮した玲司の顔文字が並んでいた。
「作戦会議?何のだろ?」
「ほら。チャンスじゃん、お姉ちゃん」光はニヤリと笑った。「先輩は、お姉ちゃんに頼ってるんだよ。それが幼馴染枠ってやつ。使わなきゃ損だよ」
華恋は胸が高鳴るのを感じた。玲司に呼ばれるのは嬉しい。だが、どうせ彼は、次の打倒・天堂沙耶香の策を練るのに、自分を利用したいだけだろう。
(でも…行かなくちゃ)
華恋は反射的に立ち上がり、妹の冷たい視線を受けながらも、鏡の前で髪を整えた。そして、次の敗北へと向かう熱血漢の幼馴染の元へと急いだ。玲司の家へと向かう道のり、華恋の心には、玲司への淡い恋心と、天堂沙耶香への遠い嫉妬、そして妹に背中を押された少しの勇気が入り混じっていた。
玲司の家に着くと、彼はリビングで既に、大量の資料とゲームの攻略本に囲まれて、目を血走らせていた。
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