第8話「帰りとRINEのやりとり」

 夜の六時を過ぎたので、二ノ宮先輩は帰ることにしたらしい。勉強道具などを片付けている。

 結局勉強半分、遊び半分になってしまったが、まぁそんなもんだろう。勉強も遊びも、高校生には大事なことだ。


「駅まで送っていきますよ」

「うん、ありがとう!」


 玄関で靴を履いて、「おじゃましました」と言った二ノ宮先輩と一緒に、駅まで歩いて行く。ちょっと蒸し暑くて、じんわりと汗をかいてしまう。


「もう暑くなったよねー、これからどんどん暑くなっていくんだろうなぁー」

「そうですね、きっと暑いと思います」

「そうだよねー、でも、テスト終わったら夏休みがあるねぇ! そっちは楽しみ……あ、三年生は課外授業があるんだった……」

「そうでしたか、頑張ってくださいね」

「くっ、太陽くんは受けなくていいからって……! あ、太陽くんも学校に来てさ、私と一緒に課外授業を受けるの、どう!? それでオールオッケーだと思うんだけど!」

「オールオッケーって言われても、それは無理ですよ。三年生の内容についていけないですよ」

「そっかー、名案だと思ったのになぁ」


 ……ほんとに二ノ宮先輩は頭がいいのかバカなのか分からないな……おっと、それは言うと怒ってしまうな、言わないでおこう。

 駅に着いて、時刻表と時計を見るとあと十分で電車が来るようだった。


「そういえば二ノ宮先輩の家って、どのへんですか?」

「ああ、学校の最寄り駅近くのバス停から、バスで十五分くらいのとこだよー。ここと同じで、住みやすい街だよ~」

「え、そうだったんですね、すみません、遠いのに来てもらって」

「いやいや、私が行きたいって言ったからさー、いいんだよ~。そのうちさ、うちにも遊びに来てくれないかな? 太陽くんだったらOKみたいな」

「そうですか、じゃあ、そのうちに……」


 ……ん? お互いの家に遊びに行くって、もうそれは知り合いを超えて友達同士なのでは……と、今更なことを考える俺だった。


「……あの、さ、太陽くん」

「はい」

「これからも、私と友達で、いてくれるかな……?」

「……はい、俺もぼっちよりは、二ノ宮先輩と話している方がいいなと思っていたので」

「ありがとう! あ、RINE送るね。既読無視しないでね」

「未読無視はするかもしれません」

「えー! そんなことしたら本当に泣いちゃうよ~」

「嘘ですよ、ちゃんと返します」

「ううー、太陽くん、たまにいじわるになるよね……あ、電車来たみたいだね」


 話をしていると、駅に電車が入ってきた。二ノ宮先輩は「じゃあまた!」と元気よく言って改札を通って電車に乗り込んでいった。


 ……改めて考えても、あの二ノ宮先輩と、うちで二人きりになって……今頃になって恥ずかしくなる俺だった。



 * * *



『今日はありがとう!』

『でさー、また電車降りる時に改札で引っかかってさー、恥ずかしい思いしたよねー』

『帰りに美味しいプリン買ったんだ~、見て見て~』


 その日の夜、二ノ宮先輩から怒涛のRINEが送られてきた。そんなにたくさん送らなくてもいいのにな……と思いながらも、ちょっと嬉しくなる俺だった。

 まぁ、今まで友達がいなかったから、RINEで話す人もいなかったんだけど……一人とはそういうものである。


『プリン美味しそうですね。もう食べたんですか?』

『ううん、まだー。これはお風呂上がりにとっておくんだ~。ふふふ、いいでしょー』

『二ノ宮先輩、楽しそうですね』

『そう思うー!? 今日は太陽くんにも会えたからね! でも太陽くんの部屋にエロ本やエロDVDがないのがちょっと気になったかなー』

『なにを気にしているんですか。そんなものはありませんよ』

『えー!? 思春期の男の子なら、そういうの気になるでしょー? あ、隠してたんでしょ!?』

『隠してませんよ。そんなものはありません』

『くぅ、恥ずかしがる太陽くんも見てみたかったなぁ』


 なんの話になっているんだろう……という疑問は置いておこう。高校生ならこのくらいのどうでもいい話がちょうどいいのだ。


 まぁ、今まで友達がいなかったから、こんな話する人もいなかったんだけど……あれ? これ二回目だな。


『それはいいとして、もうすぐテストですね。頑張りましょうね』

『うん! 頑張るよ~! 太陽くんが応援してくれると頑張れそう!』

『まぁ、応援はしています。でも応援しなくても二ノ宮先輩はいい成績を残しそうな気がしますが』

『気持ちの問題だよー。テンション上げていかないとね! 太陽くんも頑張ってね!』

『はい、ありがとうございます』


 ふと窓を開けて、夜空を眺めてみた。綺麗な星が輝いている。

 今日は二ノ宮先輩の本音も聞くことになった。周りの人からカッコいい、イケメンと言われている二ノ宮先輩も、一人の女の子なわけで。疲れたり、悩んだり、そういったこともあっておかしくない。


『二ノ宮先輩、夜空の星が綺麗ですよ』

『えー、そうなんだね、私も見てみよーっと!』


(……俺と話すとホッとする……か)


 誰かにそんなことを言われたことのない俺は、ちょっとした嬉しさを感じていた。

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