第7話「自分を作っている」
「えいっ! えいっ! やぁっ! たぁっ!」
ゲーム機のコントローラーをカチャカチャ操作しながら、掛け声を言い続ける二ノ宮先輩だった。
あれから「ゲームがしたい!」と言う二ノ宮先輩に付き合って、一緒にゲームをすることにした。これは俺がよくやってる格闘ゲーム。二人で対戦できるからちょうどいい。
二ノ宮先輩もそこそこゲームをする人らしい。「ふっふっふー、私にかかれば簡単なものよ!」と言っていたが、先ほどから俺に負け続けている。まぁ、俺も一応いつもランダムマッチで鍛えているからな、それなりの位置にいる腕なのだ。負けるはずがなかった。
「ううー、また負けた……太陽くんのいじわるぅ……」
「まぁ仕方ないですよ、俺もこれはやり込んでいますし」
「うう……私練習してくる! このゲーム買う!」
「それはいいんですけど、勉強は?」
「勉強も頑張る! ゲームも頑張る! それでオールオッケーでしょ?」
「オールオッケーでしょって言われても」
それからもう一戦して、また負けた二ノ宮先輩は、「きょ、今日はこのくらいにしといてやろうかな!」と、なぜか強がっていた。
「太陽くんはゲームが上手だったんだねー」
「まぁ、趣味レベルですけどね。上手い人はもっとたくさんいます」
「そっかー、ふふふ、太陽くんがカッコいいなぁと思ったよー」
「ありがとうございます。褒められると嬉しいものですね」
「お、いいね、素直になるのもいいことだと思うよー」
そう言って俺の頬をツンツンと突く二ノ宮先輩だった。
……あれ? そういえば、今隣に二ノ宮先輩が座っている。まぁ一緒に一つの画面を見ながらゲームをしていたから当たり前といえば当たり前なのだが、距離が近い。ふと二ノ宮先輩を見ると、スマホを見ていた。横顔も綺麗でちょっとドキドキしてしまった俺だった。
でも、これまで二ノ宮先輩と話してきて、他の人と話す時とは雰囲気が違うなと感じていた。なんか、俺と話す時はカッコいいっていう感じではないというか……気になったので俺は訊いてみることにした。
「二ノ宮先輩は、二面性を持っているのですか?」
「え?」
「あ、いや、なんとなく。他の人と話している時と、俺と話している時は、雰囲気が違うなと思って。違ったらすいません」
俺がそう言うと、俺から視線を外してふと遠くを見た二ノ宮先輩だった。
「……うん、そうかもしれないね。私、周りの人から『カッコいい』とか『イケメン』とか言われて、なんとかその期待に応えようとしていたのかもしれない。自分を作っているっていうのかな。でも、ずっとそれも疲れるんだよね……」
遠くを見ていた二ノ宮先輩が、真面目な顔でそう言った。二ノ宮先輩も『一人になりたい』と言っていたな。ずっと自分を作っていると疲れてしまうのは、気持ちが分かるかもしれない。
「……でね、一人になりたいなーと思っていたら、太陽くんがいてね。太陽くんも一人になりたいって言ってたから、話が合うんじゃないかなぁと思ったら、ほんとにその通りで……なんかね、ホッとするんだよ。太陽くんと話している時が。その時が本当の私なのかもしれないね」
二ノ宮先輩がこちらを見て、ニコッと笑顔を見せた。俺と話している時が本当の二ノ宮先輩……なんだか俺だけが特別みたいで、ちょっと恥ずかしくなった。
「そうですか……二ノ宮先輩も大変なんですね」
「ううん、周りの期待に応えようとしていた、周りの評価を下げないようにしていたからね、自業自得だよ。それだと疲れちゃうよね」
「そうですね、自分を作っているのは、疲れると思います。でも、二ノ宮先輩が俺と話してホッとするんだったら、俺はいつでも相手になりますよ」
俺がそう言うと、またニコッと笑顔を見せた二ノ宮先輩は、俺の右手を両手で握った。二ノ宮先輩の手のあたたかさがダイレクトに伝わってくる。俺はちょっとドキッとしてしまった。
「……ありがとう。太陽くんは優しいね。これからも、よろしくお願いします」
俺の目を見て言う、二ノ宮先輩。
それは、あたたかい眼差しで、俺の胸のドキドキがより一層増した。
「いえ、こちらこそ……よろしくお願いします」
「……うん」
……その後、部屋が静寂に包まれた。じっと俺のことを見つめる二ノ宮先輩。俺の右手は握ったままだ。すると少しずつ二ノ宮先輩が俺に近づいてきて……あ、あれ? これは、何が起きようとしているのか……もう目の前に二ノ宮先輩がいる。整った顔立ちの、二ノ宮先輩が、そっと目を閉じながら――
――ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。俺も二ノ宮先輩もハッとする。俺は慌てて玄関に行く。母宛ての宅配便だった。受け取ってリビングに置いた後、部屋に戻ると、クッションで顔を隠している二ノ宮先輩がいた。
「……二ノ宮先輩?」
「……ご、ごごごごめんね、私、変なことしようとしてた……ど、どうしたんだろ……なんか、なんとなくっていうか、その、あの……」
恥ずかしそうに言う二ノ宮先輩。それを見て俺は少し笑ってしまった。
「わ、笑わないでよ~、太陽くんのバカぁ」
「すいません、俺もちょっと……いや、なんでもないです」
「あ、何か言いかけた。なになにー?」
「なんでもないです」
「う、ううー、恥ずかしいのは私だけなのー!?」
足をバタバタさせて、子どものような二ノ宮先輩。
……こんな姿を見れるのも、俺だけなのだろうなと思った。
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