第4話「テスト勉強をする場所」
「――あ、そうだ、もうすぐテストがあるねぇ。太陽くんはちゃんと勉強しているかな!?」
校舎端の階段の一番上で、ふんふんと鼻息を荒くして言う二ノ宮先輩だった。
この高校は各学期に一回、定期テストが行われるようになっていた。その説明はこの高校に入る時に聞いた。俺ももれなく受けないといけない……のだが、途中から転校してきた身だ。本当にちゃんとできるか不安もあった。
幸い、勉強していた内容は前の高校と同じような進み方だったので、たぶん大丈夫……だと思いたい。
「まぁ、それなりに勉強していますよ」
「さすがだねぇ。こう見えて私も勉強してるんだからねー!」
「それが普通じゃないでしょうか」
「グサッ、そこは『ちゃんと勉強していて偉いね~』とか、声をかけるべきじゃないの~。私泣いちゃうよ?」
「どうぞ」
「止めないのが太陽くんらしいよね……それはいいとして、太陽くんは勉強についていけてる? この高校で初めてのテストになるよね」
「まぁ、そこそこだとは思います。俺みたいな人間はそのくらいでいいんです」
「そこは高みを目指そうよ~、学年のトップになります! みたいな?」
「さすがにそれは難しいです。そこそこの成績でいいんです。変に目立つのも嫌だし」
「うーん、太陽くんはそういうとこドライだよねぇ」
二ノ宮先輩がやれやれといった顔をした。でも今言ったように、勉強ができると知られて変に声をかけられるよりは、そこそこの成績で空気のように存在していた方が俺にとってもありがたい。目立つことはあまりしたくないのだ。
「ドライでもいいですよ。そういえば二ノ宮先輩は勉強していると言いましたが、成績いいんですか?」
「え? 私? 学年十位以内にいつもいるよ?」
「え、自慢ですか」
「ええ!? 訊かれたから答えただけじゃーん。自慢じゃないよ~ほんとだよ~」
人の袖を引っ張って、泣きそうな顔をしている二ノ宮先輩。しかし学年十位以内にいつもいる……二ノ宮先輩は勉強ができる人だったのか。ここで話している感じでは、赤点を取って補習を受けそうな感じなのに。
おっと、そんなこと言うと本当に泣きそうなので、やめておこう。
「そうでしたか、二ノ宮先輩は勉強ができる人だったのですね」
「ふっふっふー、私のこと見直した!? もっと褒めてもっと褒めて!」
「いや、それはやめておきます」
「ガーン! 太陽くんに褒められたら、もっと頑張れそうなのになぁ~、チラッチラ」
「恥ずかしそうにしながら横目で見てもダメですよ」
「くっ、太陽くんも引っかからないお子様だねぇ~、まぁそれが太陽くんらしい、みたいな」
そう言ってあははと笑った二ノ宮先輩。さすがに俺が学年十位以内というのは難しいけど、それなりに頑張ってみようかなという気持ちになった。
「まぁ、テストは頑張ります。二ノ宮先輩も頑張ってくださいね」
「うん! いいねいいね、前向きな感じでさー。あ、そうだ、一緒にテスト勉強しない!? 太陽くんが分からないところは私が教えてあげるよ~。どう? 名案でしょ?」
「名案でしょって言われても、どこで勉強するんですか。まさかこことか言わないですよね?」
「え? ダメだった?」
「さすがに無理ですよ。一緒に勉強できるところがないですよ。ただでさえ二ノ宮先輩有名人なんだから、俺なんかと一緒にいるところ見られたらまずいですよ」
「うーん、そっかぁ、名案だと思ったんだけどなぁ……あ、でも」
そう言った後、ちょっと俺の方に寄ってきた二ノ宮先輩が、
「……別に太陽くんと一緒にいるの見られても、私はいいよ?」
と、小声で言った。
見られても、いい……? 俺は急に恥ずかしくなってしまった。
「……よくないですよ。俺がみんなから厳しい目で見られることは目に見えてます。それに二ノ宮先輩も、みんなから質問攻めにあうかもしれませんよ」
「うーん、ダメかぁ~、太陽くんは冷静だねぇ。ま、そこが太陽くんのいいところでもあるんだけどね!」
「褒めてくれてありがとうございます」
「うんうん、素直になれるのもいいことだね~。でも私としては一緒に勉強したいなぁ」
「なんで俺なんですか、二ノ宮先輩なら友達と一緒に勉強すればいいじゃないですか」
「それもありなんだけど、一人になりたい者同士の絆、みたいな? そっちも大事にしたいんだよ~」
「……二ノ宮先輩って頭いいんだなって思った俺がバカでした」
「なんでそうなるの!? うーんうーん、なんとか一緒に勉強できる場所……あ、そうだ!」
二ノ宮先輩がそう言った後、手をポンと叩いた。なんか嫌な予感がした俺は、ちょっと目をそらしてしまった。
「太陽くんのお家にお邪魔させてもらってもいいかな? そしたら二人で勉強ができるよ~!」
……こういう時の嫌な予感というのは当たってしまうようで。
「そうだね、それがいいよね! 学校の人には誰にも見られないしさ、どう? 今度こそ名案でしょ?」
俺は二ノ宮先輩が真面目に言っていることが、なかなか受け入れられずにいた。
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