第46話

「STVの西野にしの とおるです。今日は宜しくお願いします」

「WING 営業部の原と申します。猛暑の中、有難うございます」


 原がSTVのスタッフと名刺交換をしている。

 ……今、『西野 透』って、聞こえなかった?


 商品にラベラーで値札付けていた私は、声のする方に視線を向けた、次の瞬間。


「……つぐみ?」

「ッ?!!」


 Yシャツ姿の彼とバチっと視線が絡まった。


「えっ、……鮎川と知り合いですか?」


 原の『鮎川』という言葉に反応した彼。

 驚いた表情はほんの一瞬で、直ぐに営業スマイルに切り替えた。


 西野 透、二十八歳。

 STVの人気アナウンサーであり、彼氏にしたいアナウンサー、結婚したいアナウンサー、好きなアナウンサーで三年連続一位になるほど、注目のイケメンアナウンサーだ。


「大学の後輩なんですよ」

「……あぁ、T大でしたよね」

「はい。サークルでも一緒だったので、知り合いといえば、そうなのかもしれません。ハハハッ」


 似非スマイルは健在のようだ。

 多くの女性を誑かし、あの甘いマスクに騙され、何人もの女の子が痛い目を見て来た。

 ……そして、私もその中の一人。


 思い出したくもない、あんな記憶。


「つぐみ、WINGに就職したんだな」

「……仕事中なので、下の名前で呼ぶの、止めて貰えますか?」

「あ、……悪い、ごめんな」


 視線を合わすことなく、ガチャンガチャンとラベラーで値札付けを再開する。


「すみません。それでは、打ち合わせ宜しいでしょうか?」

「はいっ! お願いします」


 テレビ取材が入ると聞いた時から嫌な予感がしていた。

 人気アナウンサーだということは知っていたが、まさか、このタイミングで居合わせるだなんて。

 どれほどの確率なのか……。

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