第26話

 その場にいる人々の視線が木根さんたちと楢崎のタブレットを行き来している。


「日頃のストレスの発散なのか。軽はずみな悪戯のつもりかもしれないですけど、された方の人間は一生心に傷を抱える人もいるんですよ。ご存じありませんか?」

「っっ……」

「それから、他人の身体に危害を加える行為は暴行罪、傷を負わせた場合は傷害罪が適用されます。傷の有無を問うものであって、傷の具合で判断されるものではありません。したがって、掠り傷一つ、軽い痣であっても傷ができれば傷害罪に適用されるということです」

「えっ……!」


 楢崎の言葉に言葉を失う木根とその取り巻きたち。

 一瞬で顔面蒼白になった。


「ご存知ないようなので付け加えますけど、窃盗罪や詐欺罪の懲役刑は最長十年に対し、傷害罪の懲役刑は最長十五年。宝石や現金を盗んだ者より、火傷を負わせた傷害罪の方が罪が重いということです」

「っっっ」


 楢崎は真横にいる私の手首を掴んで持ち上げた。


「彼女のこの包帯の意味がお分かりですよね?」

「っ……、私たちがつけたという証拠でもあるの? 自宅で負った怪我かもしれないじゃない」

「……ったく、往生際が悪い奴だな。今さらどう足掻いたって、過去には戻れねぇっつーのに」


 それまで紳士的に発していた彼が、素の顔をチラつかせた。

 ビジネスバックからクリアファイルを取り出し、その中から何枚もの画像がプリントアウトされたものを取り出した。


「あんたらが、鮎川にして来た証拠だ。この会社に幾つの防犯カメラがあると思ってんだ。もう言い逃れ出来ねーぞ」


 刑事ドラマさながら、楢崎の名奉行ぶりに、辺りにいるスタッフ達からどよめきがわき起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る