第21話

(楢崎視点)


「んっ……今何時だよ。……ったく、しつけぇ女だな」


 機関銃のように次から次へとメッセージを送って来る同期の篠田。

 仕事で海外にいるから時差があり、ワシントンの深夜三時は、日本時間正午。

 恐らく、昼休憩に入ってすぐにメールを寄こして来たのだろう。

 深夜三時に留まらず、早朝五時、七時、九時……。

 二時間おきのメール攻撃でノイローゼになりそうだ。


 仕事柄、常にスマホに出れる状態にしておかなければならず、おかげで睡眠不足の日々。


 我が儘なクライアントの対応だけでも頭痛の種だというのに、連日篠田からのクレームメールに、さすがの俺も重い腰を上げねばと思い始めた。


 俺が鮎川と付き合っていると言ったことが発端で、鮎川が社内でいじめに遭っているという。

 噂話やちょっとした嫌味的な発言はどこにでもあるようなことだけど、さすがに公然の場であからさまに暴言、虚偽の発言をしたり、故意に怪我を負わす行為に及んでいるのは見過ごせない。


 篠田から送られて来た証拠写真を保存し、撮影した日時を手帳に記す。


 あと数日……。

 午前中の便でカナダへと飛び、スポンサー契約に基づく事前確認を終えれば帰国できる。


 篠田と純也からは連絡が来るが、肝心の鮎川からは一度も連絡が来ていない。

 いや、できないのか。


『俺に何かを求められても困る』と、俺が最初に釘を刺したからだ。


 元々恋愛に関心のなかった彼女を、俺が無理やりこの関係に仕向けたようなもの。

 付き合うからといって、お互いに何も求めず、今まで通り、適度な関係を保てればそれでよかったから。


 付き合う=メリットだけじゃない、ということなのだと改めて実感。

 すっかり忘れていた。

 恋人ができると、こういう煩わしいことが度々起こるということを。

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