第14話:世話焼き

「じゃあ、早速森へ……」


 俺がそう言ってギルドを出ようとすると、ソフィアに腕をぐいと掴まれた。


「その前に、寄るところがあるわ」

「寄るところ?」

「あなたのその装備、話にならないって言ったでしょう。まずは武具屋よ」


 ソフィアはそう言うと、俺を引っ張るようにして先ほど教えてくれた武具屋へと向かった。

 店に入るなり店主に声をかける。


「おじさん、この新人に合うまともな剣を一本見繕ってちょうだい」

「おや、ソフィアちゃんじゃないか。そっちの兄ちゃんは、新しい仲間かい?」

「そんなところよ。とにかく、安くていいから、実戦で使えるやつをお願い」


 店主は俺をチラ見した後、壁に掛かっていた一本のロングソードを手に取った。


「ほらよ。鉄製だが、作りはしっかりしてる。新人さんが使うには十分すぎる代物だ」

「よし、それにしましょう。いくら?」

「銀貨3枚でいいぞ」

「……高いな」


 俺の財布は空っぽだ。銀貨3枚など到底払える金額ではない。

 断ろうと口を開く前に、ソフィアが自分の懐から革袋を取り出し、カウンターに銀貨を3枚、並べた。


「ほら、これでいいでしょ」

「お、おい、ソフィア! 何してんだよ!」

「先行投資よ。あなたが弱いままじゃ、パーティー全体の足手まといになる。それに、死なれたら気分が悪いし」


 そう言って、新しい剣を俺に押し付けた。ずしりとした重みが、腕に伝わる。


「……この借りは、必ず返す」

「当たり前よ。報酬からきっちり天引きさせてもらうから、覚悟しておきなさい」


 ソフィアはそっぽを向きながらそう言った。


 武具屋を出て、ようやく西の森へと向かう。

 道中も、ソフィアのおせっかいは止まらなかった。


「ちょっと、歩くのが速いわよ。森に入る前に体力を消耗してどうするの」


 とか、


「水はちゃんと持ってる? まさか、手ぶらじゃないでしょうね」


 とか、


「森に入ったら、私の半歩後ろを歩くこと。絶対に前に出ないで。いいわね?」


 とか言ってくるのだ。


 まるで母親か教官だ。俺は子供扱いされているようで少しむっとしたが、言うことはどれも正論で、反論できない。

 それに言葉の端々から、俺を本気で心配している気持ちが伝わってくる。


「……あんた、本当に世話焼きだな」

「うるさいわね。誰かさんがあまりにも危なっかしいから、こうして言ってるんでしょう」


 森の入り口にたどり着いた頃には、ソフィアの注意を素直に聞くようになっていた。

 鬱蒼と茂る木々が、昼間だというのに太陽の光を遮り、森の中は薄暗い。湿った土と、植物の匂いが混じり合った独特の空気が、肌にまとわりつくようだった。


「……来たわね」


 ソフィアが腰に差した剣にそっと手をかけ、囁いた。

 俺も新しい剣の柄を握りしめる。

 薄暗い森の中へと、静かに足を踏み入れた

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