第4話:村の現状

 村の入り口には門番らしき男が1人立っていた。俺の姿を見るなり、訝しげな表情を浮かべる。


「おい、お前。見ない顔だな。どこから来た?」


 片方の門番が、槍をこちらに向けながら問いかけてきた。服装こそカウボーイ風だが、この世界では見慣れない格好なのだろう。警戒されるのも無理はない。


「旅の者だ。この村で少し休ませてもらえないだろうか」


 俺は両手を軽く上げて、敵意がないことを示す。


「旅人か……。まあいいだろう。だが、村で問題を起こすなよ」


 門番はそう言うと、槍を引いて道を開けてくれた。どうやら簡単に入れてくれるらしい。俺は軽く会釈して村の中へと足を踏み入れた。


 村の中はと木造の家々が並ぶ、まさにファンタジーの世界そのものだった。道行く人々は、農夫であろう格好の村人ばかりで、俺のカウボーイ姿はやはり少し浮いているようだった。時折すれ違う村人たちが、奇妙なものを見るような視線を向けてくる。


「さて、まずは情報収集だな」


 アルファンの知識通りなら、この村には酒場があるはずだ。人が集まる場所なら、何かしらの情報が得られるだろう。

 俺はリムドのMAP機能で酒場の位置を確認し、そちらへ向かって歩き出した。


 酒場は村の中心部にあり、昼間だというのに多くの人で賑わっていた。屈強な冒険者たちが酒を酌み交わし、吟遊詩人が陽気な歌を奏でている。

 俺は空いているカウンター席に腰を下ろし、酒場の主人に声をかけた。


「この村には何か変わったことはないか? この辺りで」


 情報を得るには、これが手っ取り早い。俺はさりげなく世間話のような口調で尋ねてみた。主人に尋ねてみた。

 その言葉に、主人の手を止まった。彼は大きなため息をつくと、忌々しげに顔をしかめる。


「変わったこと、ねぇ……。あんたも物好きだな。そんな話を聞きたがるなんて。…ああ、あるさ。とんでもなく厄介なやつがな」

「というと?」

「やはり変わったことといえば……例の化け物・・・・・しかねぇな」

「例の化け物……?」

「近くの山にとんでもない化け物が住みついちまったんだ。そのせいでこの村は日々怯えながら生活してるのさ」


 化け物……か。


「前までは魔物に何度か襲われそうになってたんだ。けどそこまで強くなかったし、警戒していれば対処できていた」

「…………」

「ところがある日を境に、魔物共が居なくなったのさ。原因は不明だったんだが、魔物の脅威が無くなって喜んでいた。だがな……」


 ため息をついて肩を落としながら続ける。


「魔物が居なくなった原因は、もっと強力な化け物が住み着いたせいだと発覚したんだ。魔物は化け物から逃げるように離れていっただけだったんだ。そこらの冒険者では歯が立たないようなとんでもない化け物がな」

「なるほど……」

「魔物に襲われる心配は無くなった。だがな、旅人さん。代わりに、いつその化け物が山から下りてきて、村ごと食い尽くされるか分からねぇっていう、もっとでかい恐怖に怯えることになっちまったんだ。世の中、うまくいかねぇもんだよ、まったく」


 そうだ。これはゲームでもあった設定だ。

 魔物が激減し村が安全になったと思いきや、別の脅威にさらされることになったんだ。

 やはりこの世界はアルファンで間違いなさそうだ。


「そこで王都に討伐の要請を出したんだが、未だに放置されてるってわけさ」


 ため息交じりに言う主人。


「なるほど。そいつは厄介だな」

「ああ。冒険者にも討伐依頼を出してるんだが、なにせ相手が相手だ。誰も引き受けてくれないんだ」

「そうか……話してくれてありがとな」


 俺は主人に礼を言うと、重い足取りで酒場を後にした。


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