開戦
先ほどからいろいろな話をしているセルフィスさんとネーバスさんの後ろを、僕とルーベルナさんは歩いて行く。
別に退屈なわけではなく、魔法術式を作ったり僕たちも話をしたりしながらだ。
「セルフィスが人と親しげに話すのは、結構珍しいんですよ。」
前の2人と少し距離が開いたところで、ルーベルナさんが話し始める。
「そうなんですか?」
「メルペディアくんにはデレデレだからわからないかもですけど、彼女は結構ツンツンしてますからね。
人と関わることがめんどくさい、とも言えるかもしれません。」
前を歩く2人を見たまま、ルーベルナさんが続ける。
「ただ、誰かを救ってあげたいという思いも強いんです。
時には強い言葉で、時には優しい言葉で、その人のためになると信じた行動をとっているんです。
だから、メルペディアくんも強く当たられることがあるかもしれませんが、それは成長してほしいという思いがあるということをわかってあげてください。」
「なんとなく分かってますから大丈夫ですよ。」
そう答えた僕に微笑みを向け、僕たちは歩いて行く。
1日目の夜、談笑しながら僕たちは眠りにつき、2日目の朝で僕は言った。
「3人はここで待っていてくれませんか?」
ルーベルナさんとセルフィスさんは心配そうな顔をしながらも納得してくれたが、ネーバスさんだけは受け入れてくれなかった。
「俺も行く。」
そう言い続けるネーバスさんも一緒に来ることを決め、僕たちはゆっくり歩き始めた。
「ログレン王にお話を聞いてほしいんですけど。」
闇の中を強い風が吹いている。
そこに立つ兵隊に向けて言うも、取り合ってはくれない。まぁ、そりゃそうか。
「王がお前みたいなガキとお会いするわけがないだろう。
さっさと立ち去れっ!さもなくば………」
槍を構えるその人に向けて、僕は指を弾く。
「さも…な、くぅばぁ……」
スピ〜
「お、おい。どうなってんだ?」
小声で聞いてくるネーバスさんに、
「少し眠ってもらいました。」と答える。
魔法というのは使い勝手がいいもので、相手の五感に働きかけてこういうこともできる。
ただ、ミスしてしまうと魔法をかけようとした相手が大惨事になる可能性があるのが怖いところだ。
「それじゃ、進みましょう。」
夜であるのと警備が1番薄いところから侵入して来ているとは言え、最低でも10数人。
今警備をしている人だけでも80くらいはいるだろう。
就寝中の人々を含めたら500を超える。
それも、魔法を使える人々が半数以上だと考えられるため、先発隊のことを考えると、10人で1つの上級魔法。つまり、20〜30発の上級魔法が同時に発動される可能性もあり得る。
このキャンプ地をまとめて焼き払うのもありだけど、それは話が違う。
ネーバスさんの思いもわかるし、あの街で苦しめられた人々の思いもわかる。
でも、ログレン王にも何か事情があるかもしれない。
それを聞かない限り、僕は判断しようがないと考えた。
もちろん、これであっているのかどうかはわからないけど。
「おい待て!お前たちは誰だ!」
すぐそこの角から出てきた兵士の人にもお眠りいただき、僕たちは進んでいく。
奥に見えた1番大きかったテントが最も怪しい。兵士もそのテントの周りに10数人は固まっていたため、そこにログレン王がいると考えるのが妥当だろう。
「なぁ、なんで君は魔法が使えるのに王都に行かなかったんだ?魔法が使えるなら十分な生活が保証されただろうに。」
不思議そうに聞くネーバスさんに今はそんなことを話している場合じゃないと言って、話を逸らす。
「そ、そうだな。」
強く両方の頬を押して、ネーバスさんは気合を入れ直す。
実際、ここまでは拍子抜けなほど上手く進んでいる。でも、ここから先も同じようにいくかはわからないのだ。
僕だけが気をつけていてもどうしようもできないこともある。
「何者だ!」
その1番大きいテントの前まで来て、兵士に止められる。
ここまでで見つかったのは合計5人。予想よりはるかに少ない。
風が強くて声が届かないのも理由の一つだろうか。
がしかし、近くのテントから顔を出した兵士たちが僕たちの姿を見つけて武器を取って現れる。
剣、槍、弓、魔法使いが使いそうな杖。持っている武器は様々だ。
この大きなテントの近くは近くに多くのテントがある上に、風では消せないくらいの距離しかない。
すぐに囲まれ、僕とネーバスさんに武器が突きつけられる。
その時、
「なんの騒ぎだ。」という声と共に正面のテントから1人の男が姿を現す。
「ろ、ログレン王………今侵入者を取り押さえようとしたところです!」
兵士の言葉を遮り、その人は一歩前で出てくる。
頭には王冠、真紅と紫の合わさった色のマント、マントや服にも金色や銀色で刺繍がされており、高級感のある服だ。
ただ、戦場に向いている服かと言われればそれは少し疑問だ。
「それで?なんのためにここに来た。余はお前たちを殺そうと思っている。
ぐちぐちと長く話している時間はないと思え。」
重々しい声で、その男は再び口を開く。
横目でネーバスさんを見ると、その目は血走っていて話ができるような状況じゃなさそうだ。
多少でも話をする時間が取れたのは好都合だ。しかし、いつまでこの時間があるかわからないため、僕は口を開く。
「この人は昔、村をあなたに壊されたことで故郷を失い、家族を失いました。
なぜそんなことをするのか聞きたいと思ったので、僕はここへ来たんです。」
その問いかけに鼻を鳴らし、
「そんなもの、余の怒りに触れたからに決まっておろう。まぁ、お前のようなチビには余の力の絶大さはわからないだろうがな。」と言い放たれる。
「お前の家族が死んで村が滅んだところで、余には関係ないことよ。
余が世界の中心であるのなら、お前たちはそれに従う他あるま━━━━━━」
ログレン王が言い終わる前に、ネーバスさんは前に出ていた。
剣を持ち振り下ろそうとするも、すぐ横の兵士が剣でそれを防ぐ。
剣と剣の攻防。ただ、この一瞬の怒りだけで動いている体と、今まで訓練して来たであろう兵士の差は、時間が経つにつれて現れる。
ネーバスさんが息切れを起こし、兵士がその隙をついてその場で押さえつける。
「ふむ………家族を殺されたなんだと騒いでおきながら、その程度か。笑い者じゃのぉ。
さて、賢そうな子供よ。お前はどうするのだ?」
髭をさすりながら聞いてくるログレン王に、
「もし、僕があなたに共感できないと言ったらどうしますか?」と問う。
その質問の真意を理解できなかったのか、その男は少し考え込み、そして
「お前もこの男のようにひっ捕えて殺すだけだな」と答える。
この人の言葉から、これが本心と別のことを言っているという感覚はしない。
本気で自分が1番だと思っているようだ。
「少なくとも、命を奪うまではしません。あなたを裁くのは僕ではなく、あなたに苦しめられてきた人たちですから。」
パチンと指を鳴らし、魔法を発動する。
「な、なんだ!?どこへ行った!」
つい先程までネーバスさんを押さえつけていた兵士が声をあげ、周りの兵士たちも彼がそこにいないことに気づく。
「少し遠くまで送りました。ここにいては危険ですので。」
「ほう、お主。5つくらいの年にして魔法が使えるのか。面白い。
余の魔法専門の組織に入らぬか?」
「お断りします。魔法による反抗が脅威だからといって作り出された組織に入る気にはなりませんからね。」
「はっはっは。よく頭の回る子供だ。」
双方、顔には若干の笑みを浮かべてはいるものの、目は笑っていない。
「それで、お前1人でここにいる約550人に勝てると言うのかね?」
いつの間にやら集まってきた兵士たちが、ずらりと僕を囲んでいる。
「やってみなきゃわかんないですね。」
僕は手を伸ばし、魔法を発動させる。
「低級魔法、
前方に立っていた兵士たち10数人は、放たれた炎に飲み込まれる。
「なかなか良い魔法ではないか。
ただ、威力が足りないのではないか?」
炎の向こう、一歩も動くことなく立っている人影が見える。
「オラァ!」
後ろから繰り出された槍の突きを身長を活かしてするりと躱し、その兵士の腹部に蹴りを入れる。
いっったぁ………鎧とかいうやつ硬すぎでしょ…………
蹴りは当たったもののびくともしない。
そのため、自分の足の辺りで魔法を使って風を巻き起こし、魔法の威力を上乗せした蹴りを放つ。
その攻撃は鎧を破壊し、兵士は吹き飛んでいく。
うん、これはいい。
そして、新たな魔法術式を組み立て、魔法陣を描いてその魔法を発動する。
魔装・
身体中に風を纏うことで、肉弾戦でも有効にダメージを与えられるようにする。
身体強化は使わなくても、速度さえ上げてしまえばこちらのものだ。
……………とはいえ、やっぱり人を蹴るというのは気持ちいいものじゃないけど。
数分が経ち、剣や槍といった武器を持った兵士たちは全員戦闘不能まで追い込んだ。
しかし、本番はここからだろう。
今までの戦いをしている間に、魔法陣を作っていた集まりがいくつもあった。
そして今、1発目が放たれる。
水魔法。威力は中級くらいだろうか。巨大な水の弾がこちらに向かって飛ばされる。
「
風を固めて鋭くし、それを弾く。
膨らんだ風船が弾けるように、水球が崩れていく。
『魔法というのは、階級が高ければ高いだけ良いというわけではありません。
消費魔力、形状、属性、環境。その他あらゆるものによって相性が左右されます。
もちろん、使用者のレベル、魔法陣や術式の技術によっても大きく影響を受けます。
なので、低級魔法で上級魔法を打ち消すこともできるのだと覚えておいてください。』
確かに、ルーベルナさんの言っていた通りだ。
少なくとも中級レベルの威力のものに対し、低級魔法でうち勝つことができた。
今の水魔法の魔法陣も解読できそうだし、一通り見たら研究しよう。
そんなことを考えている間も、炎、風、水、それらを中心として色々な属性の魔法が飛んでくる。
岩の質量で押しつぶされそうになった時は流石に焦ったが、中級魔法を使って質量勝負で押し勝った。
30発くらいの魔法を捌き切り、兵士たちの魔力切れによって魔法が止まったため、僕はログレン王の前に歩いていく。
そして、本命であるその男との戦いに臨むのだった。
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