次なる街
「お足元、お気をつけて。」
5日間の旅に同行してくれた馬車の騎手さんにお礼をして、僕たちは王都の入り口である門へと歩いていく。
移動費は、神父様が払っておいてくれたらしい。
神父様というのはたくさんいるらしいけど、みんなああいう優しい人たちなのだろうか。
童話を読んでもらったり魔法の練習をしたりしながらここまで来たため、5日間はあっという間だった。
神様や教会についても詳しく教えてもらった。
「通行手形はありますか?」
門に着くと、すごい装備を着た兵隊が僕たちを止めて聞いてくる。
「これでよろしいでしょうか?」
門のところで見せるようにと言われて先ほど渡された物を見せ、それが認められて僕たちは門を通り過ぎる。
「うわぁ。」
思わず、声が漏れてしまう。
5日前までいたところよりも何倍も大きそうな街。
真ん中に立っているお城に、家が2、30個入ってしまいそうなくらいの大きさを持っている。
馬車の中でルーベルナさんが読んでくれた童話にも出てきていたけど、思っていたよりはるかに大きい。
「まだ日が落ちるまで十分時間があります。
先に聖英大教会というところに行きましょうか。」
「それはいいけど、どこに何があるのかなんてわからないわよ?
まぁ、あれは王城でしょうけど。」
「さっき、門のところで地図をもらいましたよ。」
手形を見せていた時、横にいた兵隊の人からもらったそれを、2人に見せる。
「ちょうど、ここから見てお城の反対側にあるみたいですね。」
行きましょうと差し出された2人の手を取って、僕はいつもの真ん中に収まる。
すれ違う人が時々顔を赤くして僕の左右に立つ女性を見ているのがわかる。
なぜか当てられる視線にこちらまで照れくさくなりながら、僕たちは教会を目指して歩いていく。
「地図を見た感じだと、東西南北の全てに1箇所ずつ門が作られているみたいね。
王城を中心にこんな大きな都市ができるっていうことは、人や物の流通がしっかりできているということかしら。」
ふーんと言いながら、セルフィスさんが地図を片手に感心している。
「一応、この辺りのお店にどんなものがあるのかも見ていきましょう。
この後どれだけここに滞在するかわかりませんから。」
そう言った側から、
「あれは………魔術書店と書いてありますね。」
一つの店を見ながら、ルーベルナさんが興味ありそうに言う。
「あれはパン屋かしら。
お腹すいてきちゃったから買ってきてもいい?」
金をくれと言わんばかりに出された手に、ルーベルナさんがお望みのものを乗せる。
「銀貨3枚も必要かしら?」
「私たちの分も含めて、ですよ。」
「わ、わかってるって。冗談よ冗談。」
本当に冗談かなぁ。自分だけ食べる予定だったという感じを受け取りながら、僕は怪しむ。
「あれは、絶対自分だけ食べようとしていましたね。」
「やっぱりそうですよね。」
顔を見合わせて、僕たちは笑う。
「ほら、焼きたて。結構美味しいわよ。」
すでに自分はパン食べながら、セルフィスさんが戻ってくる。
近くにあったベンチに座って僕たちも袋からパンを取り出す。
「これ、お釣りね。」
木貨5枚を返すセルフィスさんに、ルーベルナさんが待ったをかける。
「ここの物価はあの町よりも高いんでしょうか?」
「さぁ?知らないわよ。」
「………口の横、さっき食べていたパンと違うパンの粉が付いてますよ。」
「えっ!?嘘!ちゃんと拭いたはずなのに・・・・・・
━━━━━あ。」
「しょうもないことするのをやめてください………
メルペディアくんがあなたみたいな隠し事をする子になったらどうするんですか。」
そこまで怒っているようには見えないけど、ルーベルナさんがセルフィスさんの頬を引っ張る。
「いててて、ごめんって。
ほ、ほら。
私の食べかけで良かったらあげるから。」
「なんでそうなるんですか!」
なんていつもと同じようなやりとりをしている2人の間に挟まれて、僕はパンを噛み続ける。
セルフィスさんが食べているのはバリバリ音がするのに対して、僕のはやわらかい。
きっと、やわらかいパンを選んで買ってきてくれたんだろう。ルーベルナさんもそれをわかっているから強く怒らないのだ。
・・・・・・・・・多分ね。
僕が2人のことをお母さんみたいだと言った時以外、ルーベルナさんが本気で厳しくしているところを見たことがない。
本当に、優しい人だ。
それから10数分ほど歩き、僕たちはやっと聖英大教会らしき建物を発見する。
ただ、10数分の間はずっと王城の横の道に沿って歩いていただけなので、このお城を一周まわるためには30分以上の時間がかかるということになる。
「このお城って中に入れるんですか?」
ルーベルナさんに聞いてみると、1万年前と同じなら基本不可能という答えが返ってくる。
「とはいえ、昔は王の力がそこまで強くなかったですから、ちょっとした成果をあげれば呼ばれたりして入ることはできました。
ペティアさんも何度か表彰に呼ばれて行っていましたから。」
なるほど…魔法とかで有名になればいけるのかな。
そんなことを考えていると、僕たちは目的地に着く。
開けっぱなしになっていた扉から中を見ると、数人の人が前の方の椅子に座っている。
その人たちの前には、ラルトールさんと同じ服を着ている、おそらくこの教会の神父さんであろう人が立っている。
それにしても、ここの教会も大きい。
お城ほどとは言えないけど、セリヌスさんたちがいるところの倍くらいの大きさはありそうだ。
僕たちも歩いていくと、その人たちが手を顔の前で組んでいるのが分かる。
1分くらい経つと、ほぼ同じタイミングで目を開いて立ち上がり、一礼する。
「##############。」
神父様が口を開いたが、何を言っているかわからない。
魔法を使っていないからだと気づき、僕は魔法を発動する。
低級魔法などは元の形が1番便利であるため、アレンジがしにくい。
「それでは、またきますね。」
「午後のお仕事も頑張ってください。」
神父様の言葉を背に、僕たちとすれ違うようにして人々は出ていく。
「すみません。ちょうど祈りを捧げにしてきた方々がいたので。
見ないお顔ですが、皆さんも祈りをしにいらしたのですか?」
「いえ、祈りではなく、この世界のことについて教えていただこうと思って来たのですが、よろしいでしょうか。」
ルーベルナさんの言葉になるほどと頷き、神父様が席に座るように勧めてくれる。
「えぇと、具体的にどんなことをお知りになりたいのでしょう。」
「魔法や人間と神の関係。魔物や魔族に関して教えていただきたいんです。」
「ふむふむ。なるほど。」
少し頭を整理するように言って、神父様は口を開く。
「この世界について、ということに引っかかりを覚えるのですが、失礼ですがどこからいらっしゃたのですか?」
「私たちは遠く田舎の村から旅をしてきた者です。
道中でラルトールさんという神父様と出会いまして。
私たちに知識がないものですから相談したところ、それなら聖英大教会に知り合いがいるためそちらの方がいいと勧められたんです。」
ルーベルナさんがその名前を出したことで、神父様の顔が少し明るくなる。
「おぉ!ラルトールとはなかなか懐かしい名前です。
昔、私と彼は同郷でしてね。
私よりも彼の方が信仰に熱心だったのでここの大教会の神父は彼になるはずだったのですが、代々繋いできた教会を守らせて欲しいと言って地元に戻っていきまして………
そうですか。彼は元気にしていましたか?」
「とても元気そうで、町の人々にも優しく接していらっしゃいました。」
「ははは、さすがと言うしかありません。
彼ほど人のことを考えて行動に移せる者など、そうそういませんよ。
もちろん、神父は皆そんな姿を目指しているはずなのですがね。」
嬉しそうに目を細めて少し、神父様は咳払いする。
「すみません。少々浮き上がってしまって。
それで……質問に答えさせていただきます。
まず魔法についてですが、そこまで使い手が多いわけではありません。
ここは王都ですので他の町と比べると魔法を使える者も多少は多く集まっています。
魔術書店というものも、他の町には基本的にないと思います。
二つ目に関しましては、神は人を導き、そのお力によって平和な暮らしを保っていられるのです。
この世が成り立っているのも全て神のお力あってのこと。
ただ、人間は神を見ることができず、神は地上には降りていらっしゃいません。天界でお過ごししているからです。
天界から我々人間を見守っていてくださる。
これが、聖英大教会含むこの世界の教会の基本的な考えです。
魔物や魔族は、大昔に神によって動物の姿へと変えられたため、この世にはもういません。」
一つ一つ説明してくれる神父様の話を静かに聞いて、僕たちは頷く。
「今聞かれたものだとこんなところでしょうか。」
「ありがとうございます。とても助かりました。」
ルーベルナさんが頭を下げ、僕もそれに続いて頭を下げる。
王都にある料金が安い宿の場所を聞き、僕たちは魔術書店に寄ってから宿に来たのだが………
「な、なんですかこれ!?」
僕が驚いたのは、シャワーと言われるものだ。
小さな歯車のようなものを回すと、お風呂の上についたいくつもの小さな穴からお湯が出てくる。
逆に歯車を回すと、水も出せる。
僕が楽しんでいる横で、タオルに身を包んだルーベルナさんは歯車を見つめる。
「これは……魔鉱石ですね。
魔鉱石に魔法術式を入れ込んで、どこかに貯めてある水に瞬間的に熱を加えてお湯にしているみたいです。」
謎を解明して顔を上げたルーベルナさんを見て、魔鉱石とは何かを聞く。
「魔鉱石は、魔力を含んだ鉱石のことです。
ただ、掘るための技術が大切なんです。
そう考えると、この世界の鉱石の価値が高いというのは一体………」
悩んでいるルーベルナさんの横で、僕はささっとお風呂終える。
自分で身体を洗い終え、先に出まーすと着替えて外へ。
「長いお風呂ね。」
ここにくる前にもう一度行ったパン屋で買った硬そうなパンをセルフィスさんが食べている姿が目に飛び込んでくる。
「そ、それ固くないんですか?」
「これくらいがいいのよ。
あんまり柔らかすぎるとお腹膨れないし。
それで?ルーベルナは何をしているのよ。こんなに長く2人でお風呂入っちゃって。」
不審そうな目で見てくるセルフィスさんに、シャワーというものを教えてあげる。
「なるほどね。
それの仕組みに夢中になっていると……
ふふふ、最近やられっぱなしだからたまには仕返ししてやろうかしら………」
誰が見てもよくないことをしようとしているとわかる目で、お風呂に向かってコソコソ歩いていく。
またいつものような戦いが始まるのかと思いつつ、知ったことではない僕は机の上の本を開く。
魔術書店で買ってきた本だ。
ちなみに、この前買ってもらった童話よりもだいぶ分厚い。
さてさて……ワクワクしながらその本を開いた第一声━━━━━
「なんじゃこれ!?」
「だ、大丈夫!?」
水びたしプラス丸裸でお風呂場から飛び出してきた2人を扉の向こうに押し返し、僕はもう一度本を見返す。
魔法階級という概念がないのか、難しそうな魔法も簡単な魔法も入り混じって書かれている。
今見た1ページでは、左側に低級魔法レベルのもの、右側には上級魔法レベルのものが描かれている。
そして、本をめくっていてわかったのが、書かれている魔法の数が極端に少ないということ。
ルーベルナさんに何度か見せてもらった魔法書は、多い時で1ページに2、3個の魔法が書かれていた。
それに対し、この本は最初の10ページ以外基本的に4ページにわたって1つの魔法の解説がされている。
これ以外の3冊も、全部同じような感じだ。
ただ………この魔法書は僕が求めていたものとも言える。
ルーベルナさんは僕が持っている魔法技術が十分だと知っているから、基礎中の基礎で必要になってくる術式構築などの説明が書かれていない本を渡してくれた。
もちろん、困っていることはルーベルナさんの知識と協力でカバーしてくれたため、言ってしまえば僕に初歩的なの魔法書や詳細な魔法書はいらなかった。
がしかし、逆に魔法術式を1から理解してみるというのもやってみたいと思っていた。
結局、僕はその日の間に買ってきた全ての本を読み切り、それから毎日魔法術式をいじり倒していた。
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