神罰の星剣
キララ
第一部 暴風都市ボレアス
プロローグ
01 凍える忘却の先
夢を見た。今は無き、遠い記憶の夢を――
凍えるような雪原で、少女の悲痛な慟哭が響く。喉が酷く痛む。そうか、泣いているのは自分自身だ。喉の奥から滲む血の味を噛み締めながら、痛みを振り切り尚も叫ぶ。
凍える寒さで麻痺した体表の感覚から辛うじて察するに、左腕と両脚は既に存在しない。傷口から滴る鮮血が、純白の雪を緋く滲ませていく。極寒の吹雪に晒されていたからだろうか、不思議とその傷に痛みは無い。張り裂けんばかりの絶叫が、喉の痛みだけを感じさせた。
体中の体温が雪に奪われていく。きっと自分は死ぬのだと、そんな実感と共にただ叫ぶ。悲痛な叫びは激しい吹雪の轟音に飲まれるが、それでも構わず叫び続ける。
遅れて気付いた。私は誰かを呼んでいるのだと。霞む視線のその先をじっと見据えると、そこには無残にも複数の武具で身体を貫かれた黒髪の男が横たわっている。少女は死に体の男を呼び、血に塗れた右手を伸ばす。
少女の願いに呼応するかのように、男の背から激しい炎の翼が立ち昇る。男もまた、血反吐を吐きながら、少女に左手を伸ばす。
音は遠き彼方に響き、無数の黒い影が近付く気配がする。酷い恐怖と凍てつく吹雪の残響の果てで、少女の手と、男の暖かな手が結ばれ、眩い光が二人を包む。
視界を覆う光の中で、こちらを冷徹に見つめる神を見た。そんな気がした――
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