第8話 サッカー



 今日の三、四限目は、体育の授業で、一組と二組のニクラス合同で行われる。

 男子はグラウンドでサッカー、女子はテニスコートでのテニスだ。

 ただ、女子の授業を担当するはずの教師が、体調を崩して欠席しているため、女子は自主練習となっている。


 身体を動かすのは嫌いじゃない。

 俺は、この『たましき』の世界に転生する前の人生では、中学から大学までずっとサッカーをやっていた。

 なので、以前周防だった時も、その身体能力の高さを活かして、何とかサッカー部のエースとして活躍出来ていた。

 転生しても感覚は忘れてなかったんだよな。

 超高校生級とまでは絶対に言えないが、この春樹の身体でも、人並み以上のプレイヤースキルは発揮できるはずだ。

 だから、この授業でもいいところを見せられると思う。


 男子は、一組と二組でそれぞれ十一人のチームを一つずつ作り、二十分間の試合を、間に十分間の休憩を挟みつつ、三回行う事になった。

 余った数名は、得点係や審判などの裏方と応援だ。


 そうして、組み上がった二チームが列を作って並んで挨拶をしてから、プレイヤー達がそれぞれのフィールドに散らばり、主審がホイッスルを鳴らして試合が始まった。


 まずはボールを持ったセンターフォワードの周防が、ドリブルで敵陣に突っ込んでいく。


「周防くーん、頑張ってー!」

「いけー!」


 監督する教師が不在のため、練習をさぼって応援にきていた女子達が、黄色い声援を送る。

 周防の人気はまだまだ健在か。

 他クラスの女子達は、まだ元引きニートが転生した後のあいつの勘違いした痛い言動を直に見てはいないだろうからな。


 その周防のボール運びはと言えば、ぎこちなく頼りない。

 サッカー部のエースを務めている者とは思えない拙さだ。


「へい! こっちだ!」


 そんな周防をみかねてか、味方プレイヤーがパスを要求するも、周防はそれを無視して個人プレーに走り、すぐに相手プレイヤーにボールを奪われてしまった。


「なっ!」


 周防は驚いているが、当然の結果だろう。


 攻守が入れ替わり、相手プレイヤー達がパスを繋ぎながらこちら側へと迫ってくる。

 ミッドフィールダーを務める俺は、その動きを見極めると、パスコースを予想し、ボールをインターセプトしてカウンターをかけた。


「まずい! 急いで戻れ!」


 相手プレイヤー達が急いで戻って守りを固めようとする。


 俺は、味方プレイヤー達と上手くショートパスを繋いで手薄な守りを突破すると、ゴール前で立ち塞がっていたセンターバックと相対した。

 フェイントで相手の動きを誘い、冷静に股の間を抜いて背後をとり、そのまま右足を振り抜き強烈なシュートを放つ。

 キーパーは必死に飛びつくが、その手がとどくことはなく、ボールはゴール右隅に突き刺さった。


「ナイスシュー!」

「股抜きなんて、すげぇプレーだな!」

「サッカー部も形無しだぜ!」


 味方プレイヤー達から称賛の言葉が浴びせられる。


「きゃー、かっこいい!」

「ねぇ、新道君って結構イケてない?」

「よく見ると、顔も悪くないよね」


 女子達からも好反響のようだ。


「くそっ! こんなはずじゃ······」


 お粗末なプレーを晒した周防が、膝を叩いて悔しがる。

 いくら周防の身体能力が高いとしても、元が引きニートでは、宝の持ち腐れと言ったところだったな。


 こうして今回の体育の合同授業では、俺は評価を上げ、周防は評判倒れだとがっかりされ、その株を下げることになった。



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