桜散る場所で 貴女に贈る花束

「……もう入学なんだ」


少女はゆっくりと落ちてきた桜の花びらを色白な手で払って、呟いた。


「あの子のこと、忘れたみたいに」


少女の親友が死んだと知ったのは、卒業式の翌日のこと。警察から、行方不明になったと連絡があった。遺体は見つかっていないとのことだったが、きっと海で入水したのだろうと悟った。……町の東にあるビーチは、少女達がよく遊んだ場所。中学校からも歩いてすぐのその場所は、彼女等にとって、誰にも邪魔をされない聖地だった。


彼女の家を訪ねた。中に入れてもらえなかったけれど、十分だった。……彼女からのメッセージは、ポストの下にあった。小学校の頃に決めた、連絡方法。


『今までありがとう。逃げてごめんね』


ただ、それだけ。


彼女の遺体は、その日中に見つかった。少女がビーチの端にある岩場に行くと、少女達がその前日まで着ていた制服の布の端が見えた。そこを覗き込むと、今にも話しかけてきそうな彼女がいた。


ねえ、知ってる? と、話しかけてきそうな――。


「陽向! 式、始まるよ」

「今行く」


母親に答えて、体育館の入口に立つ。……これで、本当に良いのかと自分に問いながら。


この学校には、顔見知りはいない。きっと、いじめのことを知っている人もいない。母親は誇らしげにそう言ったが、そんなことは問題じゃない。


少女は、入口に掲げられた看板を見つめた。


『精華高等学校入学式』


「紗凪……」


少女の親友と共に、この看板の隣に立ちたかった。――もう大丈夫だねと、笑い合いたかった。


でももう、叶わない。

もう、会えない――。


けど、

もう、苦しくないね。


知ってたよ。


すっと、傷ついてたの。


親友に語りかけるように、少女は唯だ手を胸に当てた。


――終

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