第1話 にゃんこカフェわんこカフェ大戦争の聖女
メイド喫茶での一件以来、真衣さんとは顔を合わせていなかった。
あの日のドジっ子メイド姿が妙に印象に残っていて、俺の中では“真面目なのにどこかズレてる人”というイメージが強い。
そんなある日の放課後。
セコと妹・
「ねぇタダシ、これからニオンのネコカフェ行かない?清楚スマイルで猫を撫でる私、絶対似合うと思うのよね〜」
セコが自信満々に言う。
「兄貴、猫より犬派だろ?隣にイヌカフェもあるらしいぜ」
にには茶化すように笑う。
俺は「まぁ、動物は嫌いじゃないけど……」と曖昧に返した。
その時、偶然メイド喫茶の制服姿のまま店から出てきた真衣さんと目が合った。
バイト上がりらしく、少し疲れた顔をしていたが、俺たちに気づくと軽く会釈してきた。
「……あら、真衣さん。奇遇ね」
セコがすかさず声をかける。
その笑みは、どこか勝ち誇ったような清楚スマイルだった。
「私たち、これからニオンのペットカフェに行くの。真衣さんも来る?」
セコはわざとらしく誘う。
俺には分かる。これは完全に“マウント”だ。
真衣さんに“自分のほうが俺と仲がいい”と見せつけたいだけ。
「え……でも、バイト終わったばかりで……」
真衣さんは少し戸惑った様子を見せた。
「動物好きなら、癒されるわよ?」
セコが畳みかける。
にには「兄貴もいるし、四人で行ったら面白いです、なのです!」と背中を押す。
結局、真衣さんは「じゃあ……少しだけなら」と頷いた。
こうして、セコ・俺・にに・真衣さんの四人で、ニオンのペットカフェへ向かうことになった。
*
ニオンの商業施設に着くと、休日の夕方ということもあって人で賑わっていた。
フードコートからはいい匂いが漂い、ゲームセンターからは電子音が響いてくる。
その一角に、ガラス張りの『ネコカフェ』と『イヌカフェ』が並んでいた。
「わぁ……かわいい」
真衣さんが思わず声を漏らす。制服から着替えたばかりの彼女は、まだ少し疲れた顔をしていたけど、猫たちの姿を見た瞬間、目が輝いた。
「ほらね?清楚スマイルで猫を撫でる私、やっぱり似合うでしょ?」
セコが得意げに言う。
「兄貴は犬派だから、イヌカフェに行ったほうがいいんじゃない?」
ににはニヤニヤしながら俺を肘でつついてくる。
「いや、どっちでも……」と曖昧に返す俺。
結局、セコの強引な提案でネコカフェに入ることになった。
*
店内は柔らかな照明に包まれ、猫たちが自由気ままに歩き回っている。
客たちはソファに座りながら猫を撫でたり、写真を撮ったりしていた。
「ふふん、ここは私の舞台ね」
セコが清楚スマイルを浮かべながら猫に近づく。
だがその目は、どこかイタズラを企んでいるように光っていた。
俺は嫌な予感がしていた。
セコが「ちょっと覗いてみよう」と言って、ネコカフェと隣のイヌカフェを隔てる仕切り扉に手をかけた瞬間──。
「おい、やめろって!」
俺が止める間もなく、扉がわずかに開いた。
スルリ、と一匹の猫が犬エリアへ。
次の瞬間、犬たちが「ワン!」と吠え、猫たちが「ニャー!」と応戦。
「……始まったわね」
セコが清楚スマイルで呟いた。
俺は頭を抱えた。
(やっぱりこうなるんだよな……)
「おい、セコ……これ以上はやめろって!」
俺が止める間もなく、セコは清楚スマイルを浮かべながら俺の目に黒い布を巻きつけた。
「タダシくん、あなたは何にも見ていな〜い♪」
その声はやけに楽しそうだった。
「ちょ、ちょっと待て!なんで俺が!?」
抵抗する俺の腕を、ににが「兄貴、観念しろ!」と笑いながら押さえ、真衣さんは「え、ええ……本当にやるの?」と戸惑っている。
気づけば俺は椅子に座らされ、縄でぐるぐる巻きにされていた。
ネコカフェの奥、まるで“本拠地”みたいな場所に監禁されてしまったのだ。
「これで準備完了ね♪」
セコが満足げに頷いた瞬間──。
ドサッ!
頭上から大量のドッグフードが降ってきて、俺は頭から全身までエサまみれになった。
反対側のイヌカフェ本拠地では、ムツゴ◯ウさんみたいなペットショップオーナーが同じく椅子に縛られ既に猫まみれ。
しかし彼は「いやぁ〜最高だねぇ!」と満面の笑みで、猫にいろいろな意味で舐められていた。
「ルールは簡単!ネコとイヌ、先に相手陣営のエサを全部食べ尽くしたほうが勝ち!」
セコが勝手に宣言する。
「はぁ!? そんなの聞いてないぞ!」
俺が絶望的に叫ぶと、セコは清楚スマイルでさらりと告げた。
「言ってなかった?このゲーム、店のオーナーさんも同意済みなの♪」
「うそだろぉぉぉ!」
俺の絶叫をよそに、犬たちは俺に群がり、猫たちはオーナーに群がり、律儀に一体ずつ進軍していく。
「うわぁぁぁ!俺はエサじゃないって言ってるだろぉぉ!」
必死に叫んだその瞬間──。
俺の視界の端で、ワンちゃん達が一斉にこちらを見た。
つぶらな瞳がキラキラと輝き、尻尾をブンブン振りながら、まるで合図を待っていたかのように……。
「……おい、まさか……」
次の瞬間、ドドドドッ!と床を揺らす音。
ワンちゃん達が猛ダッシュで俺に向かって突進してきたのだ。
「やめろぉぉぉ!俺は走るビーフジャーキーじゃない!」
俺の悲鳴もむなしく、可愛いワンちゃん達が次々と飛びついてきて、顔や腕をベロベロと舐めまくる。
「くすぐったい!やめろって!……あ、鼻はダメだってばぁぁ!」
俺は縄で縛られているから逃げられない。
ただひたすら、ワンちゃん達の愛情(?)を全身で受け止めるしかなかった。
その様子を、にには「兄貴、完全に犬陣営の人質だな!」と爆笑しながら動画を撮り、真衣さんは「これ、止めないと……」と真面目に焦るが、犬猫に押し倒されてドジっ子化。
セコは「ふふん、ズル可愛美少女審判の私が勝敗を決めるのよ!」と清楚スマイルで楽しそうに眺めていた。
結局、ある意味“超激レア”揃いのワンちゃんたちが俺に着いたエサを先に食べ尽くして試合終了。
「いいか? 次からは絶対にイタズラ禁止だからな!」
俺はセコに重々釘を刺した。
「はーい♪」
セコは清楚スマイルで軽く返事。
しかし帰り道で、彼女は何食わぬ顔で呟いた。
「私、せっかくタダシを負かしたんだし“新ステージ解放”はしなきゃダメじゃない?
次はウサギと亀、いいえ……ウサギとタヌキでボートレースやりたいな〜♪」
「もう勘弁してくれぇぇぇ!」
俺の絶叫がニオンの喧騒に響き渡った。
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