第3話 Eternityのはじまり

ライトノベルのモブキャラに転生して一週間。

——正直、もう一度高校生活をやるのはめんどくさい。

授業は前世の知識で余裕だし、家も親が仕事でほぼ不在だから、大学生の頃の一人暮らしと大差ない。


そんな退屈な日常の中で、俺はひとつだけ前世から持ち込んだ習慣を再開した。

作曲だ。


死ぬ直前まで、ネタ探しに夜を歩き回っていたほど手放せなかったもの。

せっかく転生したのだから、ここでも音を残したい――そんな衝動に突き動かされ、俺はSNS「つぶいたー」にアカウントを作った。


@aoto_eternity

“久遠”が“永遠”を思わせるから、“Eternity”。

前世で未完成のまま死んでしまった曲をアップする。あれは最後の最後まで頭から離れなかった曲だった。


「とりあえず、これで悔いはないかな」


再生ボタンを押してしばらく眺める。

大学時代はそれなりに人気もあって、数曲はアーティストに買われたりもした。

この世界でも、音が誰かに届けばいい――

そんな淡い期待を胸に、アプリを閉じかけたそのとき。


通知が一つ、届いた。


@mio_sound

《まるで “言葉を忘れた街” が夜の中でゆっくり呼吸しているようだった。》


思わず息を呑んだ。

こんな感想、前世でも滅多になかった。

しかも、この世界で俺の音をそんな風に受け取ってくれる人がいるなんて。


「……誰だ、この人?」


プロフィールを開くと、そこには一枚の写真。

長い黒髪をまとめ、ヘッドホンを首にかけた同い年くらいの少女。

“高校二年/聴く専/気まぐれにつぶやきます”

そんな自己紹介が並んでいる。


胸が少しだけ高鳴る。

この世界での出会いなんて、全部“イベント”とか“フラグ”とか、そういう言葉で片付けるつもりだったのに。


「……返すか、これ」


悩んだ末、短くメッセージを送る。


《聴いてくれてありがとう。そう言ってもらえたの、初めてです》


送信ボタンを押した指先が震える。

俺は転生してモブキャラになったはずなのに、どうしてこんなに心臓がうるさいんだろう。


数秒後、すぐに返信が来た。


@mio_sound

《これからも曲を聞かせてください》


え、早くない?


夜の静けさの中で、スマホの光だけが俺の部屋を淡く照らす。

前世で書けなかった“最後の曲”が、この世界で誰かとの“最初の曲”になるのかもしれない。


なんだよ、この展開。

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