第18話「特殊レーション」(前編)

 ある日のログイン時、この日は珍しくローザが用事でこれなくて、エリシャも大通りで露店をしたいという。


 なので、ゼクロスは、クレイドと話して、鍛冶でお世話になっている、「鍛冶屋」と「銃士」のツインクラスのメルを誘って、狩りにでることにした。


 これを承諾した、メルが、レイピアを腰に佩き、西洋風の軍服にマントを羽織って、緑のつば広の羽根突き帽をかぶって、ブレストプレートを着けた「昔の銃士」風の姿で店に来て合流し、迷彩服の風変わりな鍛冶屋仕様とのギャップで、店にいる皆を驚かせると、


「お待たせ!一緒に狩りに行くのは初めてだね。ゼクロス、クレイド、よろしくね」


 と軽快に挨拶をした。前の一件で吹っ切れたのか、堅苦しい感じは、ほぼ無くなっている。


「メルさん、これをどうぞ」とルーシアがワープポイントに帰還できるアイテム「翼のペンダント」をメルに渡して、


 ルーシアはさらに出発前に、HPの上限を一時的に上げる、ポーションと野菜スープを「合成」した「特製のスープ」をゼクロスとクレイドとメルの3人に振る舞った。


 メルもこれを気にいったようで、いたって明るい表情で、


「いいですね、この料理。狩りからの生還率が高まります。味も美味しいですよ」と高い評価をする。


 ルーシアは「メルさん、ありがとうございます!」と元気にこれに応えた。


 この「特製スープ」を食べ終えたメルは「じゃあ、行ってくるね」と、ルーシアの頭を撫でて言い、ゼクロス達を促して街に出ると、まず狩場を相談し、北東のジルトの町に、一旦向かうことで、合意した。


                      ☆


 北東の、ジルトの町は、中世風の街並みだが、他にこれと言った特徴はほぼない。だが、立地的に、狩りの中継地点として、いい位置にあるので、良質そうな装備をした冒険者プレイヤー達で賑わいを見せている。


 ゼクロス達は、この町に西にある、きれいな湖のある所に向かった。ゼクロスの調べでは、三叉槍を持つ半魚人のギルマンや、その上位のギルマンソルジャーが数多くでるMAPのはずである。


 ギルマンは仲間が攻撃されると襲ってくる「リンク」属性で、ギルマンソルジャーは普通に襲ってくる「アクティブ」なので、下手をすると、襲ってきたギルマンソルジャーと戦闘中にリンクしたギルマンが横槍を入れにくるという事態もある。狩りに慣れていないと、少々危険なMAPだ。


 なので、パラディンのゼクロスは、「数がきたら頼むよ、クレイド」とウィザードのクレイドに言い、クレイドも「ああ、後方支援は任せておけ」と答えた。「銃士」のメルは「仲がいいのね、二人とも」と素直に感心している。


 そして、3人が、ジルトの町から距離的には近い、この湖に到着すると、陽光をキラキラと反射して光る湖を背景に、ギルマンの群れとの戦いにはいった。


「初手はもらいます!」


 と、勢い込んでメルが、自作の良質な5割増し威力のレイピアで、突きスキル「トリプルファング」での3連撃を、ギルマンの一体に突きこんだ。


 その3連撃を全て命中させると、ギルマンはあっさり倒れ、黒くなってかき消える。


 これで「リンク」属性の、周囲のギルマンが反応して、わらわらとメルに向かう。


「だいぶ数が固まってきたな。これでどうだ!」


 それを見て、ウィザードのクレイドが、手に持った杖をかざして、火属性の範囲魔法「フレイムシャワー」でメルを巻き込まないように配慮した範囲で、火に弱いギルマンの群れを、降り注ぐ火の雨で大ダメージを与えて、まとめてばたばたと倒して一掃する。


 範囲内の倒されたギルマンの群れは、黒くなってかき消える。


「よし、俺もやるぞ!」


 ゼクロスは、少しはぐれ気味にうろついている、ギルマンソルジャーに、覚えたての「トライスラッシュ」で果敢に切り込む。


 そのスキルでの3連の「スラッシュ」と、良質なロングソードの威力で、ギルマンソルジャーも、あっというまにHPが0になり、黒くなってかき消える。


 オーガ程ではないが、そこそこ強いはずのギルマンを、圧倒して倒す3人。「メルは鍛冶の他にも、前衛としても優秀なんだな」と、ゼクロスが称賛して狩りを続けたが、やがて他のPTもやってきたので、狩場の独占はよくないとのゼクロスの判断で、3人はジルドの町まで、戻る事にした。


                    ☆


「クレイドは、ソルジャーより、ウィザードの方が向いてるんじゃないか?理論派だし」


 町のベンチに3人で腰かけて、ゼクロスがこの戦闘で感じたことをいうと、クレイドは「いや、そういうわけでもない」と、手で眼鏡を整えて言い、こう続けた。


「装備とLVさえ整えば、スキル習得の速いソルジャーは、僕にとっても充分いいクラスだ。現に今LV15で、さっきメルが使った「トリプルファング」も覚えている。それに、このゲームは、二つの「メインクラス」で楽しむ物のはずだ。状況に応じてクラスをスイッチしたほうが、戦術の幅も広がるしな」


 クレイドの言に、ゼクロスも心当たりがあるように、クセのある金髪をかいて、


「そういえば、そうだな。俺もホーリーナイトのLV18で止まっているから、後でこれも上げないとな」


 横でそれを聞いていたメルが、微笑して言う。


「バランスよく、両方のLV上げるのは大事ですよ。二人とも、遅れているクラスがあるなら、それで組んでLVを上げれば、PTの戦力の潜在力を底上げすることにもなります。とりあえず、狩場も混んでいるようですから、一度エリシャの店に戻りませんか?」


「メルはまだ、今日はLVが上がってないが、いいのかい?」ゼクロスが聞くと、


「こういうのは、あまり急ぎすぎても良くはないですから。むしろ、いい狩りをさせてもらいました」とにこりとした表情で言う、メルの機嫌はよさそうだ。


 クレイドは、メルの戦い方を見て「銃士」なのに「銃」を持っていないのが、少し気になったが、今はあえて聞かない事にした。「昔の銃士」は剣も使ったし、人それぞれのプレイスタイルがある。なにかの理由でこだわりがあるのかも、知れないからだ。


「じゃあ、一度、エリシャの店に戻るよ。二人とも、翼のペンダントを使おう」ゼクロスがまとめるように言う。


 …こうして、翼のペンダントを使って、首都セルフィの中央公園にワープで戻った3人は、そのままエリシャのロッジ風の隠れ家的な店に帰り着くのであった…。


 そしてこの後、ゼクロスPTは、メルの提案から思いがけぬ収獲を得る事になる。



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