第15話「風変わりな鍛冶屋」(後編)
「凄いじゃない!いい腕しているわね。代金のGPは、幾ら払えばいいのかしら?」
迷彩服の「鍛冶屋」と「銃士」のツインクラス、メルの作ったバスタードソード改(完成度50%)を受け取って、ローザが対価のGPを聞く。
「鍛冶代は、バスタードソードでこの出来で、素材と作業場はそちら持ちでしたので、バスタードソードの基礎値の1000Gと、完成度の50%を踏まえて、5000Gになります」と笑顔で答えた。
その額に、ゼクロスは少し驚いた。しかしそれは代金のGPが高いのではなく、逆の意味でだった。
「威力が5割増しになる大剣で、それは安いね。メルさんさえよければ、時期を見てまた、色々作ってくれると、助かるよ」
「はい、了解です。その時は、エリシャを通じてまた呼んでくださいね」と機嫌よく言って、ローザから代金のGPを受け取るとメルはこの店を出て、立ち去った。
元気そうに受け答えしていたメルに、見ていたクレイドは「彼女は「訳あり」というわりには平気そうだが、いつもこうなのか?」と聞いた。
エリシャは「私からは言えないわね。聞くなら本人から聞いて。もちろん、無理に聞き出すのは駄目よ」と、少し複雑な事情があるように、答える。
この日はこれで、みんな、ログアウト。
そして後日のログイン時、ソルジャー用の槍を作ってもらおうと、エリシャに彼女を呼んでくれるよう、クレイドが頼むと、エリシャはメルに、またウィスパーモードで話しかける。
そしてしばらく話した後…。
(…そう、気を落とさないでね。気が晴れないなら、私の店にきてくれて、いいわよ。もちろん、商売関連抜きで)
と締めくくって、エリシャは、ウィスパーモードが、向こうから切れたのを確認すると、店のみんなに言った。
「メルがゲーム内でトラブルに遭って、気を落としてるから、ここに来たら優しくしてあげて、もちろん、商売の話もNGで」
「何があったかは知らないけど、俺たちで出来る事なら、するよ」ゼクロスが言うと、クレイドも、
「人間関係のトラブルなら、深刻だ。みんなで、元気づけてあげないとな」と、これに答えた。
やがてメルが、泣きながらこのエリシャの「隠れ家的な」店に来ると、カウンター席に腰かけて「何か、冷たい飲み物を頂戴。頭を冷やしたいわ」と、言った。
そして、果実のジュースをエリシャが出すと、メルは軽くそれを飲むと、エリシャに向かって語るように言った。
「私、リアルの彼にゲーム内から、振られちゃった。この迷彩仕様の装備が気にいらなかったみたい。私は、ミリタリーマニアだから、そこもマイナスだったのかも…」
エリシャは、慰めるように、ことさら優しく声をかける。
「詳しい事情は分からないけど、趣味が合わないから別れるっていうその男の人も、少しあれね。本当に好きなら、その位は汲んであげないと、なのにね」
「いいのよ、無理に慰めてくれなくても。これで、気楽なソロになったと思えば、ある意味、これ以上気を遣わなくて済むし。折角だから、2階の作業場、貸してくれない?気晴らしに、鍛冶に打ち込みたいの」
「分かったわ。好きなだけ使って気を晴らして。ルーシアも、いいよね?」
会話を振られたルーシアは、
「はい。メルさん、好きに使っていいですから、早く元気になってくださいね」
と、答えた。メルは、荷物のリュックを背負って2階に上がった。
キーン、キーン、キーン…。
しばらくメルが、鍛冶をする音が、1階にも響いたが、ゼクロス達は、誰も文句は言わなかった。
むしろ逆で、メルが元気になればいい、と、みんなで話し合ったくらいである。
☆
やがて、気が晴れたのか、晴れ晴れとした、表情でメルが2階から降りてきて、皆に言うには、
「おかげですっきりしたわ。ありがとね。エリシャも、他の皆も。2階で作ったものは、お礼代わりにあなた達にあげる。大丈夫、手は抜いてないから、安心して」
そういって、ゼクロス達とも、改めてFL交換をすると、メルは、迷彩のリュックを背負って、この店を後にした。
2階の作業場には、強力そうな、剣や槍、弓や斧などが乱立していて、どれも手に取ると、かなりの高性能のものばかりで、あった。
「…気晴らしで、これを作れるというのも、大した物だね」
「ああ、彼女には、これからも世話になりそうだ」
ゼクロスとクレイドがそれぞれ、しみじみというと、エリシャは、
「これは彼女の厚意でもらったものだから、使ってもいいけど、売っちゃ駄目よ。経緯はともかく、戦力がまた上がったのは確かね」と言って、この場をまとめた。
こうして、メルの作った装備品は、ゼクロスPTの戦力をかなり底上げして、気が晴れた後の彼女も、度々店を訪れて、鍛冶を引き受ける役を、担う事になるのであった…。
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