第14話「風変わりな鍛冶屋」(前編)

 キーン、キーン、キーン…。


 茶色い基調のロッジ風のエリシャの隠れ家的店の2階で、ルーシアが、前回のダンジョンで手に入った鉄類を使って、鍛冶にいそしんでいた。


 鍛冶は基本、力仕事なので、1階にいるゼクロス達は、ルーシアを心配したが、鍛冶の邪魔をしても良くないので、彼女が鍛冶作業を終えるのを、じっと待っていた。


「ルーシアは大丈夫かな、怪我しないといいけど…」


 普段大人しい、可愛らしい彼女が鍛冶作業をするのを心配そうに、ゼクロスが言う。クレイドも同じのようで、


「正直、あまり無理させたくない。とりあえず、ゼクロスの剣が一本出来たら様子を見よう」


 と、そわそわした、多少落ち着かない様子だ。


 ローザは「大丈夫よ。このゲームでは、スキル持ちは補正がかかるから、合成や鍛冶で、怪我する事は滅多にないわ。あの子も真面目だから、なおさらね。でも、体力的には厳しいから、一度に大量生産はできないし、させたくはないけど」


 と、二人を安心させると共に、急がせないように釘をさした。


 やがて、鍛冶をする音が止まり、2階からルーシアが降りてくると、息を切らせながら、ゼクロスに、一本のロングソードをトレードする。


「ロングソード改(完成度+20%)」と、トレードウィンドウにはあり、どうやら、2割増しの性能のものであるようだ。


 ゼクロスが、ルーシアの手を握り「ありがとうルーシア。よく頑張ってくれたね」と鍛冶の成果を労う。


 アバターとはいえ、金髪で碧眼の美男のゼクロスに言われて、ルーシアがうつむいて赤くなる。クレイドがすかさず間に割って入ると、ルーシアに心配そうに声をかける。


「怪我はなかったかい、ルーシア。疲れただろう。今、果実のジュースを持ってくるから、少し椅子に座って休むといい」


 と、言って、ルーシアを丸テーブルにある、椅子の一つに優しく座らせると、カウンターにいるエリシャに、果実のジュースを頼む。


「はいはい、口に優しいリンゴのジュースよ。ルーシアにあまり無理させないでね」


 といって、銀髪の美人アバターの店の主、エリシャはリンゴのジュースをクレイドに手渡す。クレイドはこぼさないように慎重にそれを運んで、ルーシアのいる、丸テーブルに、丁寧に置いた。


 エリシャと同じく銀髪で、眼鏡をかけた彼のアバターも、知的でなかなかの美形といえたので、ルーシアはまたも赤くなったが、クレイドには特に親しくしてもらっているので、それを受けて、


「ありがとうクレイド、ゼクロス達もね。これまでポーション合成が多かったから、私の鍛冶屋のLVは高くはないの。元々は、アクセサリーを作るために取ったクラスだったから」


 ルーシアはそういい、リンゴジュースをテーブルにある、ストローを使って飲む。程よい酸味と甘みが、ルーシアの疲れを少しやわらげる。


 ローザは「そうならそうと、最初からいいなさいな。無理はさせたくないから、武具を鍛冶するプレイヤーが、もう一人いると、いいかもしれないわね。ゼクロスなんて、戦士系のツインクラスだから、装備を全部つくってもらったら、ルーシアが倒れちゃうわよ」


 と、ルーシアを心配して、武具を作る鍛冶屋プレイヤーの必要性を強調した。エリシャも思案顔になり、やがて一つの案をだす。


「露店を出してる時に、出会ったFLのちょっと変わった鍛冶屋の人がいるけど、呼んでいい?今ちょっと訳ありで落ち込んでるから、みんなが優しく接してくれるのが条件ね。どう?」


 ゼクロスは「エリシャのFLなら、みんな歓迎すると思うよ。落ち込んでるなら、なおさら、励ましてあげたほうがいい。どういう状況か分からないけど、できるだけいい対応をさせてもらうよ」と言い、


 クレイドも同じ意見のようで「エリシャ、そういうことなら、ここに呼んでみてくれないか。大丈夫。悪いようにはしないと約束する」と答えた。


 エリシャは「ローザもそれでいい?」と聞いた。


 ローザも異論はないようで、


「エリシャのFLなら大丈夫よ。それに一応、皆の拠点だけど、ここはエリシャの店でもあるから、もっと気軽に人を呼んでもいいのよ?良くない人だったら、出入り禁止にしちゃえばいいんだし」と、答えたので、エリシャはFLから、ウィスパーモードでそのFLの人とコンタクトを取り始めた。


(…うん、街はずれに、山荘めいたロッジ風の建物があるから、来てくれると、嬉しいわ)

(…了解よ。すぐにそこに向かうわ)


 そして、少しして、やってきたのは迷彩柄の厚手服を着た、緑のヘルメットをかぶった女性プレイヤーだった。


                    ☆


 その迷彩服の女性プレイヤーは「鍛冶屋」と「銃士」のツインクラスでエリシャの店に入ると、自己紹介を始めた。


 アーミーナイフを腰に装備して、これも迷彩のリュックを背負った彼女は、はきはきとして「メルファーナといいます。はじめまして、今日はよろしくお願いします」とエリシャの店にいる皆に軽く敬礼して言った。


 ブラウンの短い髪に、茶色の眼をした彼女は、温和そうな表情で、ややボーイッシュな雰囲気がある。


「珍しい服装だね。腕のいい鍛冶屋とも聞いたよ。俺は「エグゼクロス」長いから「ゼクロス」でいい。こちらこそ、よろしく」


 ゼクロスが、メルファーナにそう、挨拶すると「では、私もメルでいいです。みなさんも、そう呼んでください」


 と、クレイドとローザ、ルーシアにも言ったので、3人とも、早速その名で彼女を呼ぶ。


「「バルクレイド」だ。僕も長いから「クレイド」でいいよ、メルさん」


「ルーシアです。メルさん、よろしくお願いします」


「ローザよ。よろしく頼むわね。メルさん」


 そして、一通り挨拶が済むと、メルはさっそく「本題」に入る。


「鍛冶屋が必要だと聞きました。なりはこんな感じですが、私も一応、鍛冶屋25LVです。素材があるなら、装備の類を作れますよ。もちろん些少のGPは頂きますが」


「じゃあ、まず私に質のいいバスタードソードを作ってくれると嬉しいわ。作業場はルーシアの管轄だから、彼女も一緒になるけど、いいかしら?」


 ローザが鍛冶の腕を試すように言うと、メルはもちろんです、と前置いて、


「了解しました。ルーシアさん、作業場に案内してください」


「あ、はい、こちらの2階になります。ついてきてください」


 こうして、エリシャの知り合いの、少し変わった服装の鍛冶屋メルファーナがここでの鍛冶を始めた。


 エリシャが「訳あり」と言ったように、彼女にも様々な事情があるのだが、ゼクロスPTの皆がそれを知るのは、もう少し後になる。


 そして、ルーシアの見守るなか、メルがバスタードソード改(完成度50%」を素材を用いて作り上げて、威力が5割増しのそれを受け取った、ローザを感嘆させるのであった…。




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