家に帰るとくーでれ幼女
たねみそ
第1話
時計の針が夜の十時を示している。
けれど、いまだ仕事の終わる気配はない。
今日も今日とて残業だった。
あー、死ぬ。まじで。
× × ×
終電に間に合ってなんとか帰宅した。
時刻は午前一時過ぎ。
これで明日も普通に朝七時過ぎには家を出ないといけないというのだから、やってられない。社畜つらすぎ。
疲れた。ただただ、疲れた。
癒しを求めて僕はゾンビのような足取りでマンションのリビングに向かう。
「ただいま、ハル子さん」
「………………おそいです」
ちんまりした白髪の幼女が、恨みがましげに僕を睨んできた。
「ごめん。今日も仕事が長引いちゃってさ」
「……それは、
「いや、好きではないけど」
「……好きじゃないのに、どうして仕事なんてしてるのですか?」
「まあ生きていくためには、働いてお金を稼がないといけないからかなあ」
「……だったらお金と、私と、どっちが大切なのですか?」
究極の二択だった。重い彼女みたいなことを言う。
要するに、ハル子さんは、こんな夜遅くまで家に一人で放っておかれたことを怒っているらしい。
「ごめんごめん。今度からはなるべく早く帰れるように頑張るからさ」
自分でもそうなることを切に祈りながら、僕はハル子さんのちんまい身体を抱き上げる。抱き上げて、もふもふした白髪に顔をダイブさせる。
彼女も毎度のことなので抵抗しない。
されるがままだ。
それをいいことに僕は顔をこすりつけるように、うりうりーってする。顔中がフローラルな石けんの匂いでいっぱいになる。
至福の時間だった。
明日も仕事を頑張ろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます