第16話:参謀 イリメ・ローブルー

 何だこの男は? いつの間にこの部屋にいた?


 唖然とする俺の前で、「も〜!」と言ってリーロは頬を膨らませた。


「イリメ、急に出てくるなといつも言ってるであろう! びっくりするではないか!」


「申し訳ありません、相手に気配を悟られずに動く癖が体に染み付いているものでして」


 男はリーロに平然と言葉を返している。身長が高い。190センチはあるだろう。複数の勲章が佩用されている紫色の軍服を身に纏っており、服の上からでも体が引き締まっているのが見て取れる。腰からは刀を提げていた。


 短く刈り上げられた紫色の髪、やや細長の顔、鋭い目つき。さらに放たれてる覇気のようなオーラ。只者でないことは一目瞭然だった。


「ベール様、こちらはイリメ・ローブルー様です。優秀な参謀として国に仕えているお方です。加えて国王様の側近としての役割も担っています」


 お久しぶりですイリメ様、と言ってユーナはイリメとやらに笑顔を向けた。イリメはユーナをじろりと睨みつける。


「貴方が急に職場を飛び出したばかりに、大騒ぎになっていましたよ」


「あ……それは申し訳ありません。急いで祠に向かわなければと思って、つい……」


「まあもういいです。問題は貴方です」


 イリメは俺に鋭い視線を向けた。


「私は貴方を信用していません。本当に貴方がベール・ジニアスなのか、とても疑わしい」


「ちょ、なんてこと言うんですか! この方は正真正銘ベール・ジニアス様ですよ! 先程の文才バトルで勝利し、100点を叩き出したんですから!」


「そうじゃイリメ! 100点なんて普通の人は出せん! ベール・ジニアスに違いないぞよ!」


「イリメはん、さすがにそれは疑り深すぎまっせ!」


 ユーナ、リーロ、ジャッジマシンの言葉を受けても、イリメは首を縦に振らなかった。


「信用出来ませんね。私と国王様はそのバトルを直接見ていません。口裏を合わせて我々を騙そうとしている可能性だってあります」


「おいイリメ、何を言っておる!」


「過去にベール・ジニアスを自称して我々を騙そうとした輩が何人もいたこと、国王様はお忘れではないですよね?」


「う……それは……たしかに……」


 イリメの言葉を受けてリーロはおかっぱ頭に手をやり、口ごもった。


「そんなん知らへんし! ワテが100点って採点したから100点なんやて! ワテを信用せんとか絶対許さへんで! あかん、堪忍袋の尾が切れてまいそうや!」


「まあまあ、落ち着いてよ、ジャッジマシン」


 怒りの顔文字を浮かべ、ぴょんぴょん飛び跳ねるジャッジマシンを俺は手で制した。


「この人は俺がベール・ジニアスじゃないって思ってるわけだろ? なら、目の前で俺の文才を見せつければいいだけの話だ。ここでバトルをすればいい。俺が圧勝すれば認めてもらえるはずだから」


「たいした自信ですね」


 俺は唇の端を釣り上げた。当然だ。俺の文才に敵う奴なんて誰もいない。


「では、お言葉通り今から文才バトルをしてもらいましょう。このような事態を想定して、対戦相手は既に用意してあります」


 イリメがぱちんと指を鳴らすと、背後の扉が開き、1人の人物が部屋に入ってきた。

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