第15話:国王 リーロ・パーブルー

「ユーナが職場を飛び出して祠に向かったという知らせを聞いた時、妾の胸は躍った! 神話で英雄に心と体を捧げるとされているユーナが祠に向かうというのはそういうことだと思ったのじゃ! 案の定ユーナは英雄ベール・ジニアスを連れて戻ってきた! 天晴れじゃ!」


 少女は両手の親指を突き立て、明るい口調で言った。


 この子が国王? こんなに小さい子が?


 目を丸くする俺を尻目に、「こんにちは、国王様」とユーナは言って頭を下げた。


「お変わりなくお過ごしのご様子で何よりです」


「うむ! 妾はユーナに会えて嬉しいぞ!」


 少女はにこにこと笑みを浮かべている。なんともかわいらしいが、こんな小さな子が本当にこの国のトップなのだろうか?


「ベール様、こちらはリーロ・パーブルー様です。パーブルー国の国王様です。この国で1番偉い人になります」


「その通り! 妾は国王なのじゃ!」


 リーロ・パーブルーなる少女は得意げに胸を張っている。


「ベールはん、どないしたん? まさか国王様に見惚れとるん?」


「あ、いや、えっと……」


「まあ気持ちはよう分かるわ。めちゃくちゃかわいいもんなぁ」


「これこれジャッジマシン! お世辞はよすのじゃ! 妾は別にかわいくなどないわ!」


 少女はなんだかとても楽しそうだ。俺は改めて少女を観察した。


 ユーナがだいたい22歳くらいの女性の見た目であるのに対して、目の前の少女は高校生、いや中学生くらいに見える。ユーナとの違いを分かりやすく言うと、ユーナは美人なお姉さん系、対して少女はかわいいロリ系だ。


 ユーナの卵形の顔と比較して、少女の顔はより丸みがある。丸い大きな目の中の瞳は紫色。目の位置がやや低めで目と目の間隔が広い。鼻と口が小さめで、頬はふっくらとしている。肌の色はユーナと同様に色白だ。


 紫色の髪は短く切り揃えられていて、どう見てもおかっぱにしか見えない。その髪型に加えて身長の低さがよりいっそう子供っぽさを助長している。身長は150センチもないんじゃないだろうか。


 めちゃくちゃかわいい、というジャッジマシンの言葉は本当だった。ユーナ同様いかにも男から人気が出そうな容姿だ。サイズが大きめな紫色の着物もよく似合っていてとてもかわいらしい。


「国王様、なんかテンションが高いように見えるんやけど」


「当たり前じゃ! 英雄の登場をワクワクしながら待っておったんじゃからな!」


 少女は頬を紅潮させながら言い、ゆったりとした足取りで俺に近づいた。


「そちがベール・ジニアスだな?」


「ああ、はい」


「よくぞ参った! 妾はそちのような英雄の登場をずっと待っていたのじゃ! これでパーブルー国は救われる! いやあ、めでたい! めでたいのう!」


 少女はぴょんぴょんとその場で飛び跳ねている。なんとも元気な子だ。


「あ、えっと、国王様、俺はまだ……」


「待て。そんな他人行儀な呼び方は好かん。リーロと呼ぶのじゃ。敬語も使わなくてよろしい」


 どうやらこの国の女性は、会って早々名前で呼ぶこととタメ口を求めてくるらしい。変に断って拗ねられても困るので従うことにした。


「分かったよ、リーロ」


「うむ! いい気分じゃ! 先程何かを言いかけておったな! 好きに話すがいい!」


「俺、まだ混乱してるんだ。元の世界で死んじゃってこの世界に転生したみたいなんだけど、いまいち状況がよく分からないし、俺が英雄とされてるのもよく分からない」


「ふむ、気持ちはよく分かるが、そちはベール・ジニアスなのだろう? 神話にそちは英雄だとしっかり書かれておったぞ。ならばそちが正真正銘の英雄ということではないか」


 さも当然、といった様子でリーロは言葉を返す。


「いやいや、いきなり英雄って言われても混乱するというか、なんというか……」


「こればかりは受け入れてもらうしかないのう。ジャッジマシンがここにいることから察するに、もう文才バトルを行ったのじゃな?」


「はい、先程ベール様はとある方とバトルを行い、勝利しました。総合評価は100点でしたよ」


「な、な、なんと! 100点!」


 リーロは目を見開いた。どうやら100点をとるのはよほど珍しいことのようだ。


「それはたまげた! さすがベール・ジニアスじゃ! よし、そちの実力は分かった! そちを今ここでパーブルー国の代表選手に任命する! 国を代表して他国の選手と戦ってほしいのじゃ!」


「え? いきなり代表選手になっていいんですか?」


 誰が相手でも負けるつもりはなかったが、こんなに急に代表選手に任命されるなんて思ってなかった。俺の疑問に「問題ない!」とリーロは笑顔で返す。


「事態は一刻を争っておる! それに妾は国王じゃ! 国王ならどんなことをしてもおっけーなのじゃ!」


「駄目です」


 突如割り込んだ、バリトンの効いた低い声。視線を向けると、いつの間にかすぐ近くに1人の男が佇んでいた。 

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