第3話 星紋と星紋色


 教室に入った瞬間、全生徒の視線が透導歩夢へと向けられた。


 突然の注目に、歩夢は少し落ち着かない様子を見せる。


 そのとき、ぱっと手を振ってくる女子生徒がいた。


「あ! きたきた! 透導君!」


「おや? 片橋さんと透導君は知り合いなのかい?」


ムヘッド先生の言葉を即座に否定し、片橋笑実が身を乗り出した。

 茶髪のロングボブに、揺れる赤いリボン――明るさが一目で伝わってくる女の子だ。


「やっぱりー! 南同士仲良くしよ! 私は片橋笑実かたはし えみだよ!」


 笑実の声はどこか嬉しそうだった。

 歩夢は軽く頷く。


「あぁ、よろしく」


 この世界には数多くの島が存在し、人名には地域ごとの傾向がある。

 歩夢や笑実のような名前は西や南に多く、ムヘッド先生のような名は北や東に多い。

 島番号は中央に近いほど若く、離れるほど大きくなる――歩夢が過去に栄星から習った知識だ。


「はい、ではここで自己紹介をしてもらおうかな」


「……またですか?」と歩夢は小さく聞き返す。


「うん! このクラスの人たちに透導君のこと知ってもらわないとね! もちろん透導君もみんなのこと覚えてね!」


 当然のように言うムヘッド先生に、歩夢は諦めたように息を整えた。


「俺は透導歩夢。南島三等星出身だ。よろしく」


 簡潔すぎる挨拶に、ムヘッド先生は「え? もう終わり?」と小声で呟く。


「終わりです」


 教室に微かな拍手が起こった。


「いやー、もっとこの学園で学びたいこととか、体験したいこととかないの?」


 歩夢は少し考え、正直に答える。


「ないです」


 歩夢にとって、青春や将来の夢は遠い存在だ。

 栄星が“青春を感じてほしい”と願っていたことを思い出すが、復讐だけを見つめてきた時間は長すぎた。考え方を変えるにはまだ足りない。


「よし、ありがとう。じゃあ席は……どこが空いてるかな?」


「はーい! 私の前あいてまーす!」


 笑実が元気よく手を挙げる。


「じゃあそこだね」


「はい」


 歩夢は荷物を机に置き、周囲に軽く挨拶した。生徒たちもそれぞれ返事を返してくれる。


 隣の席には白髪の短髪の女子生徒が座っていた。声は出さなかったが、小さく頷いた。


「さて、授業の続きをしよう。透導君、今ね、『星紋スターマーク』と『星紋色スターマークカラー』について授業しているんだけど、何か知っているかな?」


「星紋は『宇宙天帝龍ユニバースドラゴン』から祝福を受けた者の体に現れる星型の紋章のこと。星導力という力を扱えるようになり、色によって得意な能力が違う」


 歩夢が答えると、ムヘッド先生は目を輝かせた。


「おぉ~! すごい! 詳しいね!」


 教室から小さな拍手が起きる。

 どうやら地上の生徒たちはまだ基礎知識の段階にあるようだ。

 歩夢は栄星から徹底的に叩き込まれていたため、自然と答えが出た。


「じゃあ星紋色について知っているかな? 発言するときは立ってね」


 歩夢はルールに従い立ち上がる。


「星紋色は赤・青・黄色・緑の四つが基本星紋。他に茶色・白色・黒色が特殊星紋と呼ばれている」


「その通り! 本当によく勉強してるね!」


「子どもの頃から習ってたので」


 席に座ると、肩を軽く叩かれた。


 笑実が笑顔で囁く。


「透導君ってすごいね!」


「子どもの頃から教えてもらってただけだ。すごくはない」


「ううん、そんなことないってば! 私はバカだから分かんないもーん」


「そうなのか」


「透導君って前の学校でも頑張ってたんだねー!」


「……」


 歩夢は何も答えることができなかった。


「うんうん、ありがとう! では透導君の星紋は何色かな?」


「俺の星紋色は……」


 ――ガタンッ!!


 突然、教室の扉が勢いよく開いた。


「透導歩夢はいるかしら!」


 名前を呼んだのは、高身長で金髪を一つに束ねた女性だった。

 星型のリボンの中央には、見慣れない紋章が刻まれている。


「ちょ、ちょっとレイラさん! 今は授業中ですよ!」


 後ろから別の教師らしき人物が慌てて止めようとする。


「あ、パイナップルの人だ」

「パイナップルランサーズ!」


「誰ですの!? 今パイナップルって言ったのは!」


 レイラと呼ばれた女性が怒声を上げる中、ムヘッド先生が穏やかに問いかけた。


「レイラさん、どうされました?」


 歩夢は自分が呼ばれたので、立ち上がって発言する。


「俺に何か用か?」


 レイラは鋭い視線を歩夢へ向け――高らかに宣言した。


「あんたが透導歩夢ね! あなたに決闘を申し込むわ!」

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