第22話 ひとつの命

「アカ、今日はここで休もう」


「くぅーん」


見晴らしのいい丘を見つけたあたしは、国境の関所を目前で、休むことにした。


ルカールの街を出て、全力で北を目指し、今日で二十日が経っていた。


なるべく、街道を外れ人目を避けながら森を駆け、なければ夜を待って移動した結果である。


ここまで迷わずに来れたのは、シビルに渡された、地球でいう方位磁石みたいな魔道具のお蔭だ。


魔力を流しながら、行きたい方向を思い浮かべると、矢印が指すようになっていた。


「さっさとテントを出して、飯食って、風呂に入ってねちまおう」


「くぅん」


【収納】から``組み立ててあるテント´´を出し、``出来立ての料理´´を食べてから、生活魔法で風呂を作って入り、眠った。


夜は焚き火をしなくても、吸血姫のお蔭か夜目が利くので必要がないのがありがたい、アカツキも同じだ。


次の日の朝、陽が昇ると自然と目が覚めた。


二十日間の野宿の成果か起きる習慣ができた。


早速、朝食を済ませ片付けたら、関所に向かった。


【収納】は便利でいいな。


関所には朝一ってこともあり、並んでる者はいなかった。


「許可証と身分を証明できるものを出せ」


ルカールの領主に書かせた許可証と、ギルドカードを出した。


「【収納】とは便利なもん使えるんだな。·········許可証も問題なさそうだ、それにしても、Bランクとは大したもんだな…よし、通っていいぞ」


「ああ、ありがとな」


問題なく関所を通り抜けたときに、別の衛兵が気に障ることを言ってきた。


「それにしても、なんだあの変な服は」


「おい!」


バカにした衛兵の襟元を掴み引き寄せた。


周りの衛兵はあたしの行動に驚き、持っていた武器をそれぞれ向けてきた。


「キサマ!何をする!」


「なにもしねぇ!少し黙ってろ!」


軽めの【威圧】で周りを黙らせ、引き寄せた衛兵を睨みつけ、忠告をした。


「人にはな、我慢できねぇことってあんだろ。あたしにとってはこの服はその一つだ、今回は許してやるが、次は殺すゾ!」


「ひっ、そんなつもりで言った訳じゃないんだ。許してくれ」


手を離し、自由になった衛兵は尻餅をついて震えていた。


周りの衛兵も、ことが済んだとわかり安堵し、武器を納めた。


「ふぅー、嬢ちゃんすまなかったな。今後は気をつけるように周知させる。ただな、俺からも言わせてくれ。無茶しすぎだ!ここに今いるのは、みんな平民だが、たまに貴族上がりもいる、こんなことしてたら命に関わるぞ!」


「忠告はありがてぇが無理だな、同じことがあれば誰であろうと許さねぇ、この服には命よりも大事な誇りがあんだよ」


衛兵達はなにも言えなくなり、見送ることしかできなかった。


国境を越え人目を避ける必要がなくなり、余裕ができたことで、周りの景色を楽しみながら歩くことができた。


途中、ゴブリンが出て来るものなら《ベレッタ92》で瞬殺し、獣型の魔物が出てくれば、あたしはやらず、アカツキに元に戻ってもらい【咆哮】で追い払っている。


「できるだけ、獣型の魔物は殺したくねぇな、もしもん時はハラ括るが、それ以外はアカ任せだな」


アカツキを撫でながらそんなことを頼むと『任せて!』と伝わってきた。


景色に飽きればアカツキを抱えて走った。


その繰り返しで三日が経った夜、森の手前で、休もうとした時、不意にアカツキの様子が変わった。


「アカ?······どうした?」


アカツキは森の方を見て、懸命に耳をピコピコさせていた。


耳を見て癒されてたら、元の姿に戻ったアカツキは森に向かって走りだし、『ついてきて!』と伝えてきた。


急いで追いかけ、【万能探知】を進路の方へ掛けてみれば、複数の反応を探知した。


魔物同士の縄張り争いか?そんなことで、アカが必死になるとは思えんな。


アカツキからは必死の感情が伝わってくる。


「アカ!先に行ってるぞ!」


「ガアァァ」


スピードを上げると開けた場所に出た。


そこには狼型の黒い魔物が、同じ種族と思われる魔物を取り囲んでいた。


あたしは躊躇せずその囲いを飛び越え中央に横たわっている傷だらけの魔物の横に着地した。


いきなり現れたあたしに、周りの魔物は警戒を強めた。


傷だらけの魔物を観察してみると、抱き抱えるように毛色の違う小さな子供を守るようにしていた。


コイツ、子供を守ってこの状態か。


その時傷だらけの魔物は驚くことに、片言ながら言葉を発した。


『タノム ワレノコト ハ イイ ワガコヲ タスケテクレ』


「ああ、任せろ!だけど、お前もだ!」


魔物は満足したのか気を失った。


あたしは息を吸い叫んだ。


アカーーーーー!!


アカツキは答えるように『ガアアア』と返してきた。


取り囲んでいた魔物達は、今の鳴き声と森の方から近づいて来る地鳴りへ警戒を強めた。


そこへ、アカツキが現れ、魔物達へ【咆哮】を叩き込んだ!


ガアアアアアアアーーーーー!!


その【咆哮】で魔物達は怯え、脱兎の如く方々へ、逃げていった。


急いで傷だらけの魔物に【鑑定】を使い状態を確かめた。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


名前


:なし


種族名


:ダークウルフ(♀)


スキル


:咆哮 影移動


状態


:瀕死


 △△△△△△△△△△△△△△


ヤバい!


急ぎ【収納】から、シビルに貰ったハイポーションを傷口に掛けたが、さほど効果がなかった。


「なんでだ!」


人用で魔物には効かないのか!?


思考していると、モゾモゾと魔物から白銀色をした魔物の子が這い出てきた。


どうやら、気がつき母親のことを心配しているようだ。


「キャンキャン!」


母親のお腹に頭を擦り付け、「起きてよ」と言っているように見えた。


あたしは歯を食い縛り、再び思考し閃いた。


·······あたしの血なら!


躊躇せず自身の手を噛みきり、母親の口に手を突っ込み、体内に送り込んだ。


直後、母親の体が光出し始め、前回の二の舞にならないように、子供を抱え離れた。


その間も子供は鳴いていた。


光が収まり、そこには!


全身を覆うのは、夜そのものを編み込んだような漆黒の毛皮。


その下から覗く差し毛は、まるで凍てついた銀河の星屑のように、白銀色のメッシュを形成した、母親が不思議そうにしていた。


『ワレハ タスカッタ ノカ ?』


それを見た、子供は嬉しそうに、母親の元へ駆けていった。


母親もそれに気づき、子供を存分に甘やかすように舐めていた。


助かって良かったな。


あたしは寄り添ってきたアカツキの頭を撫で、再会を喜ぶ母子を·····涙を浮かべながら、見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る