第5章 タイゾーの想い

第17話 本山専務の襲来

 花菱ランサーエボルーションが株式会社スタイルイーツシンジュク本社地下駐車場から、重低音のエグゾーストノートをかき鳴らして甲州街道に出てきた。

 本山専務は若かりしころにレーシングカーで遊んでいたときの気持ちが抜けない。本山専務のランエボは4G63エンジン搭載モデルで社外マフラーを取り付け、レーシーなサウンドが奏でられる。


 「仕事用の車は社用車のレクタスを使え。」とおやじからさんざん言われているが聞く耳を持たない。

 

 独りの時の空間ぐらいいいじゃないか。

 

 「そろそろいいヒトはいないのか?いつまでも独り者だから公私の区別もつかんのだ。」

 まったくの言いがかりだ。


 「そんなおもちゃみたいな車に乗ってレーサーごっこなんかしてるから、まだまだおまえに社長業を譲る気にはなれない。」

 

 どっちにしろまだ譲る気ないだろ。


 「孫でもできたら引退するかなー。孫ってのは、うんとかわいいらしいなー。」

 

 絶対に罠だ。あんたが、好好爺こうこうやになる姿なんて想像つかない。あんたは死ぬまでシゴトしてる昭和のモーレツ男の典型じゃないか。


本山専務はサイタマ新都心に向かって運転しながらグルグル思考をめぐらせた。


 彼女が出来ないのだからしょうがないじゃないか。

 自分で言うのもなんだがルックスは悪くない。つぶらな瞳でガタイがデカくて、男として悪くないと自負している。

 

 マッチングアプリや婚活パーティーだって30過ぎてからは、やるようにしている。

 気になるのは、オレが社長の息子だからって、金目当てで寄ってくる女が多くなってきたことだ。こちらが焦っていることを見透かされているようで、なおさら敬遠してしまう。


 よって、ここ数年彼女もいなくなってしまった。あーもう、35歳か。


 本山は愛車ランエボの6速ギアを入れアクセルをベタ踏みし、首都高速美女木インターチェンジを超えサイタマに入っていく。


 サイタマに入ると急に渋滞となる。

 昔はなかった現象だ。


 2年前、トウキョウダイバで原因不明の放射能流出事故が遭った。年間2ミリシーベルトの放射線が観測され続けており、それが止まらない。

 

 それほど危険とは言えない放射線量ではあるが、ニンゲンの風評に踊らされる習性もあり、近場で巨大都市に発展中ということでトレンドの街となったサイタマ市にヒトが流れることとなった。

 

 そして人口の増加に対応すべく、サイタマ新都心駅とオオミヤ駅が合致してサイタマ新都心オオミヤ駅という巨大ステーションとなった。

 よって、サイタマ市はニンゲンが多すぎて飽和している。


 ノロノロ運転となりますます思考は巡る。


 今日はサイタマ新都心オオミヤ店の花咲あおいさんに話しを聞かなければならない。

 専務の自分がいちアルバイトに時間を取ってもらい店に行くなどめったにあることではない。

 

 本山事業本部長から重大な報告を受けての臨店となる。

 

 「AIロボットが店長になったため、女性の体に深刻な影響が出ているかもしれません。専務、花咲あおいさんに会って確かめて頂きたいです。」と本山は言っていた。


 経営者として従業員の体を守ることは重要な役目だ。きっとあおいさんはココロもカラダもロボットに毒されているに違いない。


 他の従業員にこのことが広まったらAIロボットを店長として許可している経営陣の問題に発展してしまうかもしれない。ここはリスクヘッジのため、近くの喫茶店で話を聞かなければならない。

 

 二人きりで話をしていたら、カップルのように見えてしまうかな?あおいさんもだんだんとココロを開いて、悩み相談も持ち掛けられるかも知らない。

 人生経験豊富で偏差値も最高で77を記録したこともあるこのわたしが親身になって相談にのってあげるとあおいさんは勘違いしてしまうかもしれない。

 「あなたは将来社長になるヒト。私でいいんですか?」


 そういう展開になってもおかしくない。わたしは女性に人気があるからな。わたしが店舗視察をすると若い女性たちがみなキャーキャーカゲで言っているのにわたしは気付いている。


 でもそんな社長夫人の座を狙っている、欲の皮のつっぱた女子たちと違ってあおいさんはしごくさっぱりしている。だから私もなぜかこのヒトが気になってしまうのだ。


 サイタマ新都心オオミヤ駅と一体化しているオオミヤインターチェンジを降りて、直ぐ近くにあるキャッシュレスパーキングに愛車ランエボを止めて店の裏口から入った。


 重い従業員口の扉を開けると、ガイジンが一人立って何か作業をしている。

 「どちら様ですか?」

 

 おや、このガイジンはニホン語ができるようだ。従業員らしい。

 あー、おやじが言ってた技能実習生というヤツか。


 「花咲あおいさんと話しをしなければならないので来たのだが……取り敢えず店長を呼んでくれるかい。」

 

 「かしこまりました。」ラフマンはキレイなニホン語を習得している。


 バックヤードでしばらく待っていると、電気自動車の機械音みたいな音が近づいてきた。


 「本山専務、ご苦労様です。今日はどういったご用件ですか?」C3POみたいな顔に4段トレーの寸胴ボディ―、4輪駆動の憎い奴が近づいてきた。


 本山は後ずさった。


 すっかり忘れていた。ここの店の店長はロボットだった!

 そうだ、ロボット店長の女性に対するココロとカラダの影響を調べるために来たのだった!引いてる場合じゃない。


 「いやー。今日は君には用じゃない。花咲あおい君を呼んでもらえるかね。」

 「もうじき営業が始まるところ申し訳ないのだが、花咲君から従業員として重大な相談を受けている。わたしは経営者として向き合わなければならない。これは社長では、おじさん過ぎてできないことなので、わたしが経営者として試される重要な任務なのだ。悪いが小一時間くらい花咲さんをシゴトから抜けさせてあげて欲しい。」

 

 本山専務は息を切らせ、目を血ばしらかせながら一気にまくしたてた。一粒の大きな汗が本山専務の額から首筋に滴りしたたり落ちた。


 「かしこまりました!花咲さんを呼んできます。」


 カズトは4輪を疾走させ花咲さんを呼びに行った。


 「お待たせしました、花咲です。偉い方が私に何の用ですか?」


 本山専務は久しぶりに会ったあおいを見てカラダも口も固まってしまった。


 圧倒的に可愛い。華奢な体躯に、自然なくらいに茶色く染めた髪をポニーテールにして、前髪は下ろして作っている。そのつぶらな瞳から覗き込むように見つめられた。


 ドストライクで私の好みだ。目を見つめているだけで吸い込まれてしまいそうだ。

 「……」


 「どういったご用件ですか?」

 

 「み、み、水上部長から報告を受けているのだが、花咲さんはロボットアナフラキシーなんですって?」


 「ロボットアナフラキシーってなんですか?」


 「し、知らずと病に侵されているんですか。もっとソフトに言えば、ロボットアレルギーつまり、ロボットが店長だと体質的に合わなくて吐き気をもようしたり、頭痛がしたり、ヒドイヒトになると、帯状疱疹を発症しり……。精神的にも病んで出社できなくなり、あげくは引きこもりになってしまうという恐ろしい病だと聞いています。」


 「それ誰の話ですか?私なら、全然そんなことありませんよ。」

 「っていうか、佐山店長のときよりシゴトが格段にやりやすいですよ。カズト店長は本人も一番動いているのに、視野が広くって私たちがハマっていないかまで気にかけて動いてくれるんです。それに、贔屓ひいきとかしないから、従業員間のチームワークも良くなってきたし。

 

 何より、シゴトはこうすれば良い、接客はこうすれば良いって答えをchatAIでを導いて出してくれるから、メチャクチャ勉強になるの。

 むしろカズト店長になって良かったです。本社の人達がよく考えて人事をしてくれたおかげです。ありがとうございます。」


 「ありがとうございます。」と言われて、本山はニヤケてきた。

 

 「あつ、佐山さんも元気ですよ。カズト店長はロボットなんですけど、人間性?がいいからなんですかね。どんなヒトも受け入れて平等に扱い、そのヒトそれぞれの特徴をつかんで見守ってあげることができるので、誰でもがハタラきやすいんです。最初は腐っていた佐山さんも結局居心地がいいみたい。会ってあげてください。佐山さん呼んできますね。」


 「あっつ、待ってください……。」

 もっと話が……と言葉も届かずに花咲あおいは、ホールの方に行ってしまった。

 

 すぐに佐山はやってきた。

 本山は佐山には何も、1mmも興味がない。

 

 本山専務は立ちつくす。

 

 ……独りよがりの片思いだったようだ。

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