第ニ話 映画みたいな冒険

「映画に出てくるような冒険してみたいと思わない? あたしたちくらいのとしの子が主人公で、親に内緒でちょっとした冒険する話。なんかあったよね」

 月が変わって十二月になった。その日は少し曇り空の金曜日。給食を食べ終わって昼休みに集まると、突然ゆかりが言った。

「スタンド・バイ・ミーみたいな冒険?」

 わたしは線路を歩く男の子たちの姿をおもいだした。

「そのタイトル、映画は知らないけど歌なら知ってる!」

 大学生のお姉さんがいる絵美が、得意気な顔をして言った。そしてその歌を口ずさんでいる。

「どんな映画?」

 千紗ちさは絵美の歌を聴いたあと、ゆかりの顔色をうかがうように言った。千紗はゆかりや絵美には強く出られないところがある。

 ゆかりは、わたしたち四人の中だけでなく、クラスの女王様っぽい立ち位置にいる。

 ゆかりの家はお金持ちで、持ち物全部がブランドもの。見た目がアイドルみたいで華があって、きらきらしてる。ゆかりの引き立て役と言われても、わたしはイヤじゃない。

「あたしたちと同い年くらいの四人の男の子が、冒険する話だよ」

 ゆかりが話しているその映画を、わたしは知っている。去年、お父さんとお母さんと一緒に観たから。

 お父さんは、二人の学生時代の思い出の映画だと照れくさそうに教えてくれた。

「線路を歩く場面、観たことあるよ」

 全部知ってるというのは、言わなかった。

 男の子たちが線路を歩く場面で、お父さんがこれをまねしたことがあると言ってたことを思い出す。その場面が一番有名なんだろうって、そう思った。

「ハルのお父さん、映画通だもんね。ハルの家には、映画のディスクがたくさんあった」

 絵美は話の中心になってる人を、持ち上げることが多い。クラスの女子たちは、絵美のことをカゲで“ゆかりの腰巾着”と言ってるらしい。

「わたしは、お父さんが観てるのをちらっと観ただけだよ。お父さん、その映画が好きなんだって」

「ハルのお父さんの好きな映画なら、間違いないよね」

 ゆかりは、うんうんと頷きながらそう言ったあと、続けてこう話した。

「映画の内容なんだけどね。男の子たちは、秘密基地で冒険の計画を立てるの。あたしたちには秘密基地ないけど、ちょっとした冒険ならできるんじゃないかなって。どうかな?」

 卒業式が終わると、わたしたちは、離ればなれになる。その前に思い出になるような冒険ことをしておきたいよね、とも言った。

 卒業までに思い出はいくつ、できるかな……

「四人の思い出になるような何か。ちょっとした冒険になるようなこと、思いつかない?」

 ゆかりは、絵美とわたしの顔を交互に見ながら言った。

 絵美は、わたしたちの中で一番頭がいい。わたしは人並みの成績しかないけれど、ゆかりに何かと頼りにされている。

 ゆかりは私のお父さんに憧れているから、そういう態度をとっているのかな、となんとなく思っている。

 話が進まなくなって、せっかくの提案がなくなりそうな空気になりはじめたそのとき、

「キューピッド様って知ってる?」

と、声のトーンを抑えて絵美が言った。

「それって十円玉が勝手に動くってやつだよね。怖い話になったりしない? 大丈夫なの?」

 ゆかりが聞き返す。

「お姉ちゃんから聞いたんだけど、キューピッド様は、こっくりさんとは違うって。鉛筆を使ってするんだって言ってた」

「絵美のお姉さんって、大学生だったよね?」

 ゆかりは興味津々の様子で、絵美の話の続きを促している。

「そうだよ。去年の夏休みに聞いたんだ。中学生のころ、学校で流行ってたんだって。怖くないって言ってたよ」

 キューピッド様の噂は聞いたことがあった。少しだけ興味があって、お母さんに聞いたことがある。

 心霊現象という話だけど本当なのかどうか聞いたら、そんなの信じちゃだめだと言われた。

「それを使ってどうするの?」

 わたしは、興味がなくなっていた。ほんとのことはわからないけど、幽霊とかそういう話になるのが怖かったから。

「キューピッド様に、冒険するなら何がいいか聞いてみようよ」

 絵美は、お姉さんからどこまで話を聞いているんだろう。危ない話じゃないから、わたしたちに話しているんだと思うけど、心配になっていた。

 わたしが不安になってきたところで、ゆかりが「それいいね!」と、乗り気になってしまったから、反対できない雰囲気になってしまう。

「いつにする?」

 ゆかりと絵美が話を進めようとする中、千紗は俯いていた。千紗は何か知っているのかな。

「千紗は、どう思う?」

 まじめな千紗は、心の中では反対しているんだと思う。でも、ゆかりには逆らえない。千紗は、小さいころにゆかりにいろいろ助けられたと言っていた。

「うん。それでいいと思うよ」

 口元は笑っているようにみせていても、目が笑ってなかった。でも、頑張って笑顔を作っているように見えた。

「だよね。千紗もそう思うよね。で、ハルも賛成?」

 絵美がわたしを見る。ゆかりも、じっと見ている。

 この流れでは反対できないなと思った。

「うん。賛成」

 わたしの一言で、ゆかりと絵美が話をどんどん進んで、日曜の昼、ゆかりの家に集まることになった。

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