あの日のわたしたちが、いつかきっと

香坂 壱霧

第一章 卒業までにわたしたちは、

第一話 約束できない春を知る

「卒業式が終わったら、うち、引っ越すみたい……」

 前日の突風で、校庭のあちらこちらには銀杏の葉っぱの黄色い絨毯が作り上げられていた。

 十一月にしては暖かい日の、昼休み。鉄棒前にある石垣でできた階段に座って、わたしはみんなの返事を待つ。

「え。それじゃ、ハルと同じ中学に通えないの?」

 四人の中で一番おとなしい千紗ちさが、目を潤ませていた。

「ハルがいなかったら……新しく友だち、作れないかも」

 気弱な言葉にわたしは何も言えなくて、ゆかりと絵美に目配せした。

「あたしは私立だし、絵美は附属中でしょ。でも、休みの日や放課後とか、時間あえば遊べるよ」

「ゆかり、そんなこと言っていいの? 中学生になったら、ときどき東京行ったりオーディション受けたりするんじゃなかった? できない約束したらだめだよ」

 絵美は、千紗を下に見るというか、ゆかりと必要以上に仲良くさせないようにすることがある。ゆかりにとっての一番の友だちでいたいんだと思う。

 気持ちはわかるけど……。今、落ち込んでる千紗に、さっきの言い方はひどいよ。

「ゆかりの夢、応援してるから、私は、勉強、頑張ることにする」

 今できる精いっぱいの笑顔で、千紗はゆかりを見た。

 落ち込んでいる千紗に、ゆかりは思い切り抱きつく。

「千紗、大丈夫だよ。千紗は、あたしたち以外にも、友だちできるから! 勉強できるし、優しいし、かわいいから、大丈夫! それにね、何よりもお母さん思いのいい子だよ。嫌う子がいたら、あたし、中学に乗り込んであげるからね」

 ゆかりのこういうところを、演技がかっているように感じて、嫌う人がわずかだけど、いる。

 学年で一番背が高くて、かわいくて、おしゃれで、ときどきモデルもしていて、とにかくすごく夢に向かって頑張っている。

 人によっては、ゆかりのことを高飛車とか鼻につくとか言ってるみたいだけど、ゆかりが口にする言葉に嘘はない。絶対、嘘は言わない。

 二人が抱き合っているところに、絵美も混ざった。

「もう……ゆかりが乗り込んだらだめじゃない。将来、大女優になるなら、乗り込むのはあたしじゃないと」

 絵美は、ゆかりが喜ぶことをするのが好きだから、千紗のことが絡んでも、必ず助けるほうを選ぶ。

 なんだかんだと、わたしはこの三人が大好きだ。

 だから、引っ越すと聞いたとき、わたしは初めて親に駄々をこねた。

『おじいちゃんおばあちゃんの家があるよね。わたしだけ、こっちに残る! 知らない町に行きたくない』

 でも、むなしく却下されてしまった。

「おばあちゃん、足腰が弱ってるみたいだから、お世話になるのは、無理だな。気を遣わせるだろうから」

 お父さんは、わたしが泣き出してしまったから、困った顔をしてしまう。

 最終的にこっちに残るなんて、やっぱりありえない、となってしまった。

「夏休み、こっちに遊びにくるから。忘れないでよ……」

 わたしは絵美の後ろから抱きついて、また泣いてしまった。

 

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