第2話 契約
「ギルドにあった奴隷解放の募集の話でしょ、おかしくない?」
シルヴァンがつまらなそうに尋ねた。
「あれでは遅すぎます!」
執事さんは、いきなり声を荒げて、あわてて、あたし達に詫びた。
「大体、話は見えましたね」
スレイマンがしたり顔であたし達を見る。
「見えたなら、教えなさいよ」
少しムカっとして、あたしは言い返した。
それが交渉人のスレイマンの役割、彼は貴族のそういう裏事情に詳しい。
しかもケチでお金持ち。ただ、男として、ナニが使えないんだって可哀想ね。
「高貴な娘の貞操の危機と、そういうわけですな」
あたしにも、そういう事あったなぁ、遠い昔にね。
「参加した連中に知られたくないってわけね」
あたしの言葉を引き継いで、シルヴァンが、サテアに尋ねる。
「聖女の交代の時期って、そろそろじゃないの?」
サテアは、軽く首を横に振った。
「あれは聖女候補が育ってからの話だ」
この男は、女性不在の修道院育ちで、そっち系はとても詳しい。
美貌ゆえに『偽聖女』として扱われていたらしい。
事情は、聞けないし、聞いた事もないけど、今はあたし達の仲間。
とにかく、元『偽聖女』とはいえ、その肩書は今でも、案外使える。
「そう思われても、依頼の内容に違いはございません」
しかし、この執事さんの感情が見えたのは一回だけ、ほとんど表情を変えない。
おそらく雇い主の娘だろう。その命を軽く見ているように感じた。
「報酬は、これで」
差し出された紙に、奴隷解放の報酬の数倍のお、か、ね。
あたしの鼻息で紙が揺れた。
もう、執事さんの態度はどうでもいいわ。
大金だもの、危ない橋は当然よね、渡りますよ、あたし達。
スレイマンは、金の出所を考えているみたい。
あたしは、拉致られた聖女候補の救出でいいわ。
どの貴族も、娘が産まれたら聖女にする事を一度は考える。
その考えは間違ってはいない。娘が家に繁栄をもたらすのは当然だもの。
「身代金の交渉期限が迫っていると」
スレイマンは静かに尋ねる。
「お受けいただけると考えてよろしいか?」
「期限は?」
「明日の夜更けです」
どおりで報酬が良いわけだわ。
「奴隷商人のアジトは、目星は?」
執事さんは、首を横に振った。
「森の奥としか、金を払う気なら明日の昼に、町の小娘を一人で森のある所へこさせろと」
「つまり払う気は無く、交渉にきた敵の後をつけて、取り返せと」
もう、あたしはこの推理大会に飽きていた。
「それでも聖女候補の身代わりに小娘を犠牲にしたって教会に知れたら、聖女は無理筋になるな」
サテアもそうらしく、執事に直球をぶつけた。
「だから、貴女に森へ行っていただき、アジトを見つけて、姫様を…」
そう言うと執事は、町娘の姿のシルヴァンを指差した。
あたしは思わず吹き出しそうになった。それを見てシルヴァンが私を睨む。
「その場合、ボクの報酬は、全体の半分、いや4分の3をもらっていいかな」
シルヴァンの奴、一人で聖女候補の奪還をする気らしい。
「奴隷商人、いわゆる敵方の大体の人数、それと魔物、獣人の存在、大体の感触でいいから教えて」
あたしの質問に執事さんは、自信なさげに答える。
どうやら20人で全て有りと考えたほうが良さそう。
全て有りとは、人以外に、獣人、野獣、魔物等がいるって話。
それに守るアジトには奴隷の檻もあるから、堅牢と考えていいわね。
そんな事をあたしがブツブツと呟く。
「皆でさっさと片づけようぜ、取り分はいつもと同じでいいよ」
シルヴァンはあっさり要求を引っ込めた。
「そろそろ姫様の名前くらい教えてくらないかな」
「お受けになると?」
「ここでその契約を『籠の鳥』が受諾いたしましす。よろしいか?」
スレイマンがあたし達三人を見て静かに告げた。
大金がぶら下がっている、異論はない。
「各自、くれぐれも裏切る事は無きように」
そしてスレイマンと執事さんが同時に言った。
「おそらく、ランカスター家の娘さんでしょうな」
「アデリア・ノルヴァーナ・ランカスター様です」
執事さんは、少し驚いてスレイマンを見た。
あたしは、その名前を復唱して、唇を噛んだ。
「通称は、おそらく、ノルンか…」
声に出してしまった。
「これは成功報酬ですね、ただ姫様が乙女のままって条件付きの」
サテアの言葉に、ああそうねとあたしも思った。
「もし、不幸にも救出失敗の場合は、ギルドの募集とします。奴隷解放代のみ、ただし、敵は全滅でお願いします」
「花を散らされて、生きていれば?」
シルヴァンは気楽に尋ねた。
「報酬は成功報酬と同額お支払いします。ただ…、聖女をいや、その娘を殺してください」
その言葉に、あたし達は一瞬固まった。
この執事、主の娘を家畜をばらすかのように、言ってのけやがった。
ただ、貴族の娘一人、しかも知らない娘をばらせと命令されただけだ。
(大した事はないわ)
それって、その娘が一発やられてたらって話よね。
そこに少し腹がたった。失敗する気は、無いもの。
「仮の話だけど、あたしがその娘の花を摘んだら?」
あたしは悪い顔をしていたと思う。
「冗談だと思いますが、貴女を女性とお見受けするので、無茶をなされなければ…」執事は最後を少し誤魔化した。
シルヴァンが、”女性とお見受け”で、大笑いしたけど無視する。
「つまり、処女審問を通過さえできれば、そういう事だ」
サテアは、あたしに教えてくれた。
「さようでございます、報酬をお受け取りになられましたら、速やかにこの土地を離れて忘れていただければ、後はこちらで」
そう言うと、執事はあたし達に一礼して、食堂を出て行った。
詳細は、あたし達の今夜の宿屋に使いを寄越すという事だった。
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