あまやどり

路地裏乃猫

第1話


 少女は、ひどく濡れていた。


 その夜、仕事を終えて帰宅した私は、アパートの駐輪場の片隅にうずくまる少女を見つけた。年齢は十代半ばぐらいか。短パンから伸びるすらりとした足は、四十絡みの男には、正直、目の毒ではあった。

 やがて私は、その顔に見覚えがあることに気づいた。同じアパートで母親と暮らす少女だ。

 痩せた肩が、凍えたように震えている。


「ええと、大丈夫かい?」


 逡巡の結果、私は少女に声をかけた。少女はのろりと顔を上げ、生気のない瞳で私を見上げた。

 瞬間、私の中で何かが爆ぜた――

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