第五話 名付けのコツとしましては。
『リーダー…!』
人はこういう時に団結力を発揮し、絆や友情を感じるのだろう。…して、リーダーは如何に。
「皆…ありがとう。それほどまでに私のセンスを評価してくれるとは。嬉しいよ!」
うんまあそういうことにしておこう。
「それじゃあ…『期待の新星〜Rising Star〜』なんてどうだろうか!」
…やらかした。俺のミスだ。こんな奴に振ってはいけなかった!あまりにも…あまりにも!
「…
筋トレ男、桝田の言葉は鋭く研ぎ澄まされておりフィクトスの自尊心に深い傷を与えた。
ピコン。音源であるプレートを見ると「フィクトス:気力減少」と表記が。動作制御AIのアイマに尋ねると、
「ギルドメンバー間では視認できる範囲に限り、ステータスの変化やアイテムの入手が通知されます。」
だそうだ。便利な世界になったもんだ。
「しかしまぁ。嫌になったら変えれば良いだけの話ですし。私は賛成ですよ。らいじんぐすたー…フルは長いので"ライター"と呼ばせていただきますね。」
読書好きの女子高生・ベルが、ポケットから丸眼鏡を取り出して掛け、そう言った。
「あー、いいじゃんライター。そういえば友達にタバコのライター借りたままなんだよなぁ。」
酒浸り女子大生茜。借りパク犯。
彼女には聞きたいことがあったんだ。
「朝まで飲み明かしていた事といい、借りたままのライターといい。それまで一緒にいた方はどうしたんですか?」
俺はポケットからライターを取り出し開閉を繰り返す茜に尋ねた。
「あ〜。あいつらねぇ。多分、ふぁりお?だかなんだかいうVRゲームを〜昔やってたらしくて。AIにお連れ様は"古代生物の爪痕"に転送されました…って言われちゃったんだぁ〜。」
…まぁこのゲームの内容から見るとその連れは男なんだろう。地名も随分と瀟酒な…。
「そうなんですね。無事だと良いですが。」
あいつら、この言葉を使った上で彼女は一人。
オタサーの姫みたいな生活をしてるんだろうな。
「最後に、アリアはどう思うんだ?」
フィクトスが俺の目を見つめてから、アリアに話しかけた。…え?アイコンタクトで通じるぜ、ってこと?会って二、三時間よ?
通知音は秒で鳴った。
【新規メッセージ】
宛先:(`・ω・´)オマイラ
件名:(・∀・)
内容:おまかせします_φ(・_・
すぅ…アリアの了承を得られたようで、フィクトスはギルド名の欄に「期待の新星〜Rising Star〜」と入力。
期待の新星六人の活動が始まった。
────────────────────
足が痛い。あまりにもオフィスワークに浸かりすぎたせいか、身体は丈夫でも歩き方を忘れてしまっているようだ。
こんな状況下での唯一の救いは、空気が美味いこと。東京で生活していると、帰省した時に感じることが出来るアレだ。地方出身田舎民の特権である。
川のせせらぎ、鳥の鳴き声。ぱらぱらと聞こえる枝を踏む音。
メンバーの息切れ、小言。尚、元営業マンのフィクトスと、筋トレバカの桝田を除く。
俺たちは今、森の奥深くへ潜り込んでいる。
この過酷な旅(インドア派にとっての。)は我らがギルドに訪れたある課題を解決する為のものである。きっかけは─
「待て、その携帯食料は食べるんじゃ無い!」
ギルド設立の申請、結成、名付け。一大イベントを終えた頃には時計の短針はとうに12時過ぎを示していた。
現代社会を生きる我々は、戦国や江戸を生きた百姓とは違い、一日を三食で過ごす。
この空腹は当然の生理現象な訳で。
メンバーが各々鞄から乾パン等の食料を取り出した所で、フィクトスが止めに入った。
「き、君たち!…保存の効くものを先んじて食べてしまうなど、言語道断だ!」
…成程。それはそうだな。妙な剣幕のフィクトスに違和感を覚えつつ、納得して携帯食を鞄に仕舞う。
「となれば…初期地点、もといセレナスの街まで食料調達にでも行きましょうか。」
ベルが提案した…がフィクトスはそれも却下!
「貴重な通貨を食糧に使うなど…」
『もう!じゃあどうしろってんですか!』
「………森、だ。」
『はぁ?』
フィクトスのニヤリと笑う顔に、メンバーは皆、困惑と苛立ちの感情を芽生えさせた。
─ということでやって参りました、森林クッキングのお時間です。
「フィクトスさん。今日は何を作るんですか?」
「アルトゥス岩塩をふんだんにまぶしたパブルム草のサラダ。天然薯とヘエソレダケの煮物。捕まえられれば猪や狸等の獣の肉を燻製にして保存しよう。」
いや軽く聞いたつもりなんだが。何処から来たんだその知識量は。町中でスカウトを重ねる内に、様々な知見を得ていたということか…?
世界がゲーム化してからものの6,7時間で?
なんだかんだ聞いていなかったが、フィクトスさんもセーブデータ保持者と繋がりがあるのだろうか…。
「で、そのアル…岩塩と、草と…天然薯?あとはキノコと、猪の肉?を取ってくればいいんですね?」
とにかく今は食料問題の解決が優先だ。
「あぁ。となると分担を決めないとな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます