第二話 新規プレイヤーとしましては。
「なんだって!?」大袈裟な俺の態度に、この世界の動作制御システムであるAI、アイマはクエスチョンマークを浮かべた。
声色が、という話ではなく。空中に浮かぶプレートに表示された初期アイコンに「?」が描かれている。何だよその要らない機能…
「ファブラム・リベル・オプターレ。通称『ファリオ』は、俺が働き始める直前に買ったは良いが、ゲームなんてする余裕もなく。キャラクリエイトで止まった積みゲーの一つだ…。」
(ここで指す「積みゲー」とは、落ちものパズルゲームではなく、何のために借りているか分からない自宅に山のように積まれたゲームソフトのことである。)
「積みゲー…?よく分かりませんが、藍染様が当ゲームのセーブデータを所持していることは既に確認済みです。」
「…は!?」
「一度ご自分の姿を確認なされては?」
そうは言っても…鏡なんか無いし…。
「!?」
空中のプレートから初期アイコンが消え、全面が鏡へと変化した。仕事の出来る奴だ。
寝惚けていたからか、特段ファッションに興味があるわけでも無いからか。全く気付かなかった。
昨晩、ワイシャツにズボンで仮眠を取ったはずの身体には、まるでコスプレの衣装のような…
ぴたりとフィットするシャツに、ロングコート。
余裕のあるズボンと、長いブーツ。
現物は初めて見る、薄い金属のプロテクター。
そして何より…
「お顔もよく出来ていますよ。」
濃紺の髪と瞳。色白の肌。整った鼻筋。
「俺が作った…キャラクター。」
「…こんなことする暇があったらプレイしておけばよかったのに…」
だめだ、突っ込んでいられない。
「そ、そうだ!ちょっと待ってくれ。俺のセーブデータが使えるということは、他のプレイヤーも…」
「はい。勿論です。」
となると、このリアルゲーム世界は「ファリオ」をやり込んだプレイヤーが頂点に立つ、圧倒的な格差社会となってしまう。
「現実に当ゲームが出力されるに当たりまして、セーブデータを所持していたプレイヤーは引き継ぎを、所持していなかったプレイヤーは新規登録をして、このワールドをプレイしています。」
急がなければ…差をつけられてしまう!
「アイマ!他に何か言い残すことはあるか!?」
まるで主人公を追い詰めた悪役のような台詞になってしまった。悪気は無いんだ。
「藍染様はキャラクタービジュアルのみの引き継ぎとなりますので、新規登録とチュートリアルに移らせていただきます。」
「あぁ!」
「改めまして、プレイヤー名を入力してください。」
先程出現したキーボードが時短になった。
…あの問答のせいで時間を食ったのだが。
俺の名前は藍染正破。正しく破ると書いて「セーハ」と読む。アイマには社畜反応で名字を名乗ったが、いつもゲームのアカウントは下の名前でプレイしている。
「Seh²a」ローマ字表記で音引きはhを書いて表すためSeh(セー)そしてha(ハ)のhが重なってh²という表記にしている。
「プレイヤー名『Seh²a』セーハで登録します。よろしいですk」
「はい。はい。はい。」
「続いてチュートリアルに移りまs」
「スキップ!スキップだ!」
俺は自分で攻略する事に意義を感じるため、実況動画や解説動画は一切観ずにプレイする主義だ。そのためチュートリアルは重要なイベントだが…
そんなことはやっていられない。
「了解しました。私はアイマ、とプレイヤーが呼びかければ起動しますので、不明な点等ございましたら気軽にお声がけください。」
「あ、じゃあ…」
この世界が夢では無いと気づいた瞬間から疑問に思っていたこと。
「ここはどこだ?」
「座標は元東京の郊外に位置します、『セレナス』と呼ばれる豊かな町でございます。ゲームプログラム出力時点でのセーハ様の位置情報から、最も近い初期プレイヤー広場へ転送した形となっております。」
「…にしては人で混雑している様子もないが?」
「セーハ様以外の新規プレイヤーは既に冒険を始めております。それも3時間ほど前に。」
…まさか…まさか…!
「寝過ごしたってことか!?」
ゲームの3時間は途轍もなく大きい。レベル1の雑魚プレイヤーも3時間戦えば中ボスぐらいは倒せる程に。
他プレイヤーとの差は想像以上に広がっていると考えよう。
現在時刻は午前9時。そして昨日の就寝時刻は午前3時。6時間ほどの睡眠は取れたが…
「午前6時に、世界は変わったのか…」
「はい。『ファリオ』のゲームプログラム出力に伴い、安定したゲーム内通貨や、HP回復薬。空を飛ぶことの出来る特殊アイテムなど、現実世界は大いに拡張されました。」
…このゲームは出来ることが多い。多すぎる。だからプレイヤーの行動は"選択する時間"に強く支配され、無駄が生じる。
ならば俺はその無駄を極限まで縮め、他のプレイヤーに追いつくことを目標に努力するしかない。
最優先事項はゲームを進めて強くなり、安心安全な生活を確保することだが…
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