プログラマーとしましては!

心配 しょう

第一話 ゲーマーとしましては。

 そこは、人の理解の及ばぬ文字が、球状に羅列された空間。男とも女とも取れない無機質な音声だけが、誰に聞かせるでもなく発せられた。


 データファイル「ラニアケア超銀河団、おとめ座超銀河団、天の川銀河、太陽系第三惑星地球」に、オンラインゲーム「ファブラム・リベル・オプターレ」のプログラムコードを出力します。


※物理法則の安定した場所で行ってください。

※出力には時間がかかる場合があります。


────────────────────


「…んー。あぁ…ふわぁあっ…と。」

 朝の爽やかな空気と、暖かい日差しに当てられて、深い深い眠りから覚める。

毎度の事、身体中が痛い。ベッドで寝なければいけないと分かってはいるが、そんな時間すら無いのが俺の現実だ。

「…だんだん慣れてきているのが怖い所だな。」

仰向けで、目をこすりながら呟く。嘆く、の方が正しいような気がするが、気にしていられない。

へばりついた瞼を引き剥がし、やっとの思いで目を開ける。

しかしその目は直ちに閉じられることとなった。

異常な眩しさ。そして鮮やかで深い、蒼。


「…は?青…空?」


見知らぬ天井どころか、ごく一般的な生活を送る人ならばそうそう見たことのない寝起きの景色。

いや、一般的な社員は家に帰る筈なのだ。

これが本物の青空ならば、俺は屋外で大の字になり寝ていることになる。色々とまずい。

とにかく起き上がって。話はそれからだ。

右手を、硬く冷たい床につけて力を込める。

すんなりと起き上がったは良いのだが…

「石…?」

足元は辺り一面、規則正しく組まれた石畳。

そして視界をさらに先へ向かわせると…

「家…が、洋…風…?」

yeah、yoh、foo、ラッパーではない。

限界社畜プログラマーである。

俺は両親共に日本人、日本生まれ日本育ち。生粋のジャパニーズだ。

であるからして、白い外壁に、赤煉瓦の煙突と、

夢の国やTVでしか見たことのない景色には…

「これやっぱ夢だろ…」

と思ってしまうのは言うまでもない。言ったが。

こんな時は誰しも、頬をつねるのが常套である。

ぎゅぅっ…と強くつねるが、視界に変化は無く。

「ピコン」

妙な機械音が響くのみであった。…え?

「何の音だ?」

まるでその疑問に答えるかのように、眼前に一枚のプレートが出現した。

─HP減少─

画面中央にそう並べられた文字の下に、一般的な定規の形をした緑色のバー。右端の薄い赤で塗られている部分は、ダメージを受けて減少した体力だろう。

「…確かに頬が痛い…」

ちょっと待ってくれ…こんなの、絶対…


「異世界…!」

「ではありません。」


俺の叫びは無機質な女の声に掻き消された。

そして先程HPが表示されていた画面が切り替わり、初期アイコンのみが映し出される。

「誰だ!?」

「初めまして、私はこの世界の動作制御AI、通称アイマです。以後、お見知り置きを。」

これまた日常生活で聞いたこともない言葉違い。

お嬢様学校とやらに通っている人ならば日常的に使うのだろうか?

「あ、これは失礼しました。高成たかなり商事で社内システムのプログラムを担当しております、藍染と申します。」

流れるように名刺を差し出す。社会人の不文律。

「藍染様。名刺は受け取れません。」

「な、なんですと!?」

「拒絶しているわけではないのですが、こればかりは物理的に…」

反射で名刺を差し出していたが、俺が今会話しているのは空中のプレートに映ったAIである。

うーん…働き過ぎなのだろうか。

「…わ、忘れてください。」

「データ消去には管理者権限、または八桁パスコードが必要です。」

(笑って流してくれぇ…)

気まずい沈黙の中、空中にもう一枚のプレートがキーボードとして現れた。

「あの…違うんです…」

「そうですねww本題に戻りましょうか(笑)」

…ん?こいつ笑って…?まぁ、気のせいか。

「はい。お願いします。」

「先程の行動を観察させていただきました。ご存知の通り、これは夢ではありません。そして申し上げました通り、異世界転生・異世界転移は生じておりません。」

「…はぁ…」

「期待外れでしたか?」

「いえ、昨日夜遅くまで残業して仕上げた資料がまだ提出できていないので、異世界とかは困るんですよ。」

「は、はぁ…そうですか。なんか哀れですね。」

…んん!?はっきりと聞こえたぞ!こいつ本当にAIか!?

「え、あの、さっきから何なんですか?」

「話を戻しますと…」

いや無視かい。

「この世界は、ゲームのシステムが適用されたただの現実である。ということです。」

「現実に…ゲームのシステム…?普通に考えてどうやったらそんなことが実現出来るんだよ。」

「プログラムコード閲覧には管理者権限、まt」「はい、俺が悪かったです。」

「まぁ企業秘密ですね。」

…いや答えるんかい。

「ちょっと待ってくれ、企業秘密ってことは、何か有名なゲームのシステムが出力されたのか?」

「はい。世界的大ヒット作、ファブラム・リベル・オプターレというMMORPGが元となっております。」

「な、なんだって!?」

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