第2話 くそったれ!!

「ふふ……案外似合ってるじゃないか」


鏡の中にはセーラー服姿の私が映っている。

そう――今日から私は“女子高生”として、この星を征服する計画を実行するのだ。


(昨日はいろいろあったけど……まあ、なんとかなるでしょ)


私は人目を避けるため空を飛んで学校へ向かうことにした。


(ふふ……私の地球侵略計画がいよいよ今日から始まる……地球人の恐怖で引きつった顔が目に浮かぶぞ……)


そんな妄想でニヤニヤしていたその時、何かが私の視界を横切った。


「……なに!?鳥にしてはデカすぎる!?」


よく目を凝らすと――。


「あ〜また会ったねお姉ちゃん」


そこには謎の黄色い雲に乗ったあの女子高生『東乃くぅ』が空を飛んでいた。


「お前、何しとんねんんんんん!!!!!!」


「いやねぇ〜さっき遅刻しそうだって言ったら怪しいおじいちゃんからもらっちゃったんだよね〜」


(くそったれ!またしても見られたくないところを……!)


「そういやお姉ちゃんも空飛んでるけど、なんでぇ?」


顔が引き攣る。今度こそ言い訳が……思いつかない!


「と……トリックだ!!私、実はマジシャンなんだよ!!」


「へぇ〜すごいね〜他にはどんなマジックできるのぉ?」


私は彼女に構っていられず、急いでその場を離れようとした。


「あ〜、待ってよ〜!」


「つ、ついてくるなぁ!!」


(くそったれ……地球に来てからコイツのせいでピンチばっかりじゃないかぁ!!)


***


私はやっとの思いで学校にたどり着いた。


――私立柑橘学園。


「はぁ……はぁ……。朝から碌でもないやつに出会ってしまった……」


ストレスで禿げ上がりそうだ。


(まあ……通う学校は奴と同じようだが教室で大人しくしてたらもう会うこともないだろう)


そう自分に言い聞かせながら私は教室の扉を開いた。


「はい、みんなこっち向いて〜。今日からこの学校に転校してきた『西 レイラ』さんです。ほら、自己紹介できる?」


私は父上から言われた通りに凶暴な本性を完璧に隠し、上品で清楚な笑顔を浮かべ自己紹介する。


「はい!今日から皆さんと過ごすことになる、『西 レイラ』です! よろしくお願いします!」


今は猫をかぶってはいるが、私の嗜虐心は抑えきれない。


(ふふ……こいつら全員、これから私に支配されるなどとは微塵も思ってもいないのだろうな)


「西、お前の席は窓際の一番後ろだ」


「はい!」


ニヤニヤしながら席に着く。

ここから、私の侵略生活が始まる――!


(フフフ…一応隣の席の奴に挨拶でもして媚びを売っておくか……)


そして私が隣を見るとそこには――


「いや〜さすがのあたしでも遅刻するかと思ったね、ホントに」


そう言いながら満足そうに背伸びをする東乃くぅ。


「いやお前も同じクラスなんかいぃぃぃぃぃ!!!!」


思わず叫んでしまった。


(くそったれ……昨日もっと奴の情報を引き出すべきだった……!)


『奴から離れたい』その一心で碌に何も聞けないままその場を去ってしまった私の甘さが招いた結果がコレか……!


(最悪だ……せっかく教室まで来たのに結局コイツから逃れられてないじゃないか……!)


すると、くぅは思い出したように指を立てて言った。


「そういや〜お姉ちゃんが乗ってた車、まだ運動場にあるねぇ?あのさ〜なんかUFOみたいなヤツ」


「くっ、くくく車!?!?なんのことだ!?やめろ!!おい!!みんな見るな!!」


叫んだ時にはもう遅かった。

クラスメイト全員が窓辺に押し寄せ、外を見ている。


――運動場には昨日私が乗ってきて墜落したUFO。


(くそったれ!!!いつもの私ならこんな雑魚、昨日の時点でとっとと殺して口封じしているのに……!!!)


教室中が「ざわ…ざわ…」と色めき立っていたその時――


「――あっ!みんなぁ!空に本物のUFOが飛んでるよ!」


私は空を指さし大声を上げた。


「え!?」「どこどこ!?」「マジで!?」


クラス全員が一斉に空へ意識を向ける。


今だ――!


私はこっそり掌にエネルギーを集中させると、誰にも気づかれないように運動場に墜落したUFOを木っ端微塵に破壊した。


ボシュゥゥゥゥン!!


(く、くそったれ……!これで私は母星に救援信号を送ったとしても最低でも1年は地球から帰れなくなってしまった……!なんて損失だ!!)


一方クラスメイトたちは


「あれ?」「UFOどこ!?」「さっきまであったのに!」


とキョロキョロ。


私は慌てて笑顔で誤魔化した。


「ゆ、UFOなんて最初から無かったんじゃないかなぁ??ねぇ東乃さん??」


だが――横を見ると東乃くぅはずっと私の手元を見つめていた。


(くそ……!こいつ、私がエネルギー弾を撃ったのを見ていたのか!?)


気まずい沈黙が流れたその時――


「お姉ちゃん」


「……な、なんだ?」


「やっぱお姉ちゃんのトリックすごいね…………!」


(よ、よかったぁぁぁぁぁ!!コイツが本物のバカでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)



――つづく

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