キラキラ魔法少女サンクビジュー 最終話「『希望』」Aパート

「…」

 地上と隔絶された異次元空間。大魔王も、があねたちも満身創痍で地面に這いつくばる中、立っていられるのは私だけだった。


「みかげ…!」

「みかちゃん、やっと…!」


 さふぃとぱあるはまだ喋れる気力があるのか、今の私を見て感嘆の声を漏らした。

 今の私は、真っ白いミニドレス。魔法少女としての戦闘服を身にまとっていた。ドローン攻撃などのサポートしかできず変身も出来なかった私が、四人の最後の魔法力を合わせることで『希望』の魔法少女として目覚めた。


「おのれ…!、おのれ、魔法少女…!、まだ逆らうか…!!」

 大魔王、全身赤い皮膚の大男が、こちらを睨んだ。口元は憎々しげに歪み、呪詛を吐いている。


「…」

 私は無言のまま、大魔王に歩み寄った。


「ぽぷ!、今だぽぷ、みかげ!、そのまま大魔王を捕まえ…、みかげ?」

 私の足元で毛玉が何か言っているが、私は返事をしなかった。


 みんなの力が流れ込んできたとき、この魔法の使い方は理解できた。毛玉の指示なんて必要ない。あとは実践するだけだ。


「まだだ…!、まだこの戦いは終わらぬ…!、まだだ…!」

「…」


 私は大魔王の正面にしゃがむと、彼の頭上に手をかざした。すると手と額の中間地点で淡い光がぼうっと輝いて、やがて消えた。


「…」

「…え?、みかげ?どうし…、…今、何をしたぽぷ…?」


 大魔王は、淡い光が消えると同時に静かになった。

 毛玉が恐る恐る大魔王に近付くと、大魔王の瞼は半端な位置に垂れ下がり、半開きの口からは呼吸もないとわかった。毛玉が狂ったように叫ぶ。


「…っ?!!、みかげ…!?、なんで、なんで殺したぽぷ?!、平和的に解決するって約束と違…!!」


 私はそっと毛玉を拾い、立ち上がった。子供の片手に収まるくらい小さい毛玉は、一生懸命に自分の存在を主張している。


「あのね、ぽぷぴょん。これが私の『希望』の魔法なんだよ」

「そんなはずないぽぷ!、命を奪う魔法なんて存在しないぽぷ!、いったいどうやって…!」


 毛玉が泣き喚いた。目も無いから涙なんて出ないのに、その声は怒りと混乱で震えていた。

 私は淡々と説明する。


「この魔法はね、その人の苦しさが見えるの。戦いたくても体が動かない、立て直してももう戦闘に使える資源もない、部下もいなくなった、どうしても勝ちたい、勝たなきゃいけないのに、何もできない」


 光の中には、大魔王が抱えていた苦痛の光景が見えた。自陣が有利だったはずなのに、想定外の事態が相次ぎ、どんどん追い詰められていく戦況。幸せだった思い出がひとつも流れない、地獄の走馬灯。


「苦しんで苦しんで苦しみ抜いた人に、最期の『希望』を与えられる。それがこの魔法の効果」


「そんな…?!、嘘だぽぷ!!、信じないぽぷ!!、信ぎっ…?!」


 とうとう現実逃避をはじめた毛玉を、私はそっと握りしめた。一般的な中学生の握力で握っただけで、毛玉は明らかに苦しがる。


「ぽぷちゃん…?!」

「みかげ?!、やめて、ぽっぷに何してんの?!」


 ぱあるとさふぃが叫んだ。私たちの会話を遮らないように様子を伺ってくれていた。本当に優しい子たちだった。


「ね、あの二人に、言うことあるよね。もう最後なんだから」

「ぽ…?!、何の、話…?!」


 私は二人に向かって、手元の毛玉をそっと転がしてよこした。投げたらそのまま衝突して死にそうだったから。


「ぷげぇ…!!」

 毛玉は情けない声を上げて、ぱあるとさふぃの間で止まった。二人はなけなしの力を振り絞って、毛玉に近づく。


「ぽぷちゃん!、大丈夫?!、死なないで!、また一緒に遊園地行こうねって約束したのに!」

「ぽっぷ!、頑張ってよ、またアタシと二人で水族館行くって言ったでしょ!?」


 二人は同時に視線をずらし、互いの顔を見た。どちらも「今お前何て言った」と書いてあった。

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