『希望』の魔法少女墓守みかげは、集落で遺骨を納め続ける

かんぽうやく

キラキラ魔法少女サンクビジュー 第一話『あたしたちが、魔法少女?!』

「まさか、あたしたちが魔法少女になっちゃうなんてね」

 夕方の下校中。赤木が頬の絆創膏を押さえながら、感慨深げにつぶやいた。


「でもでもっ、今日のがあちゃんかっこよかったよ?ホントに主人公ってカンジだった!」

 桃江が元気よく答える。スキップするたびに、二つ結びのおさげが跳ねた。


「があねの方は、ね。アンタはぴーきゃーうるさかっただけ」

「なんですって?!」

 青浜が嫌味っぽく笑う。そこにぱあるが噛みつく。この二人はいつもこうしてじゃれあっている。


「まあまあ、みんな無事で良かったよね~」

 緑野が眼鏡の位置を直して、呑気に微笑む。


「…」

 私は何も喋ることがないまま、包帯を巻いた右足を無言で引きずるだけだった。ただの擦り傷だけど、やっぱり面積が広いとしんどい。


「…みかげちゃん?」

「みかげ、大丈夫か?、傷口開いたりしてない?」

 黙ったままの私に、えめらとがあねが声をかけてきた。


「……ううん、平気。…ごめんね、私ばっかり足手まといで」

「何言ってるの」

「そんなわけないだろ!」

「昼間のあのバケモノだって、私が転ばなかったら…」



 -



 先月くらいのこと。大魔王を名乗る変な怪人がこの国に現れた。

 その大魔王が使役するバケモノが、街中に出現して破壊活動を繰り返していた。そして今日の昼、遂にうちの学校の校庭にも出てきた。


 先生や警察が到着するまで、私たちは精一杯に抵抗した。運動神経のいいがあねとさふぃがバケモノをひきつけ、視野の広いぱあるとえめらが他の生徒たちを校舎に誘導した。

 だけど、途中で転んで逃げ遅れたのが私だった。バケモノは目ざとく近付いてくる。もうだめだとうずくまったその時。


「みかげに近付くなぁーっ!!」

 があねが飛び出してきた。その体はいつの間にか不思議な赤いミニドレスに包まれている。


「今ぽぷ!キミのその『勇気』の魔法、そいつに向かって解き放つぽぷ!」

 彼女の背後、白い毛の生えた二つ団子みたいな、不気味な二頭身の生物が何か言っていた。



 -



 落ち込む私を前に、二人は言葉を絶やさない。

「みかげちゃん、元気出して?。あの変な生き物もすぐ消えちゃったし、何でもないって」

「そうだ!。次もこの魔法があれば戦えるって、ぽぴ…ぽ…、…ぽんぽこが言ってたし!」

ね、あの毛玉さん」



 -



 目鼻も無いその毛玉は、微妙に呼びにくい文字列を名乗った。どうやって喋ってるのかもよくわからないくせに。


 バケモノの襲来は災害扱いとなり、午後の授業はすべて中止になった。大人たちには、バケモノはどこかへ逃げたということにしておいた。

 教室から解放された直後、私たち五人は変な毛玉に呼び止められ、適当な空き教室へもぐりこんだ。


 毛玉は事態を説明した。

 今暴れているのは、異世界から来た悪魔の王である。奴はこちらの世界を支配しようとしている。

 異世界の平和な住民である毛玉たちはそれを阻止するため、純粋な心を持つニンゲンに魔法を任せ、あの大魔王に立ち向かうことを計画した。


 襲い掛かる異形にも懸命に抗う心は、まさしく魔法を扱える純粋な心。私たち五人全員に魔法が使えるかテストした毛玉は、その結果に驚愕した。


 があねは皆を救う『勇気』の突進攻撃、さふぃは皆を支援する『知性』の遠距離攻撃、ぱあるは皆を守る『愛』の防御壁、えめらは皆を癒す『平和』の回復。それぞれ有用な魔法の才能が発覚した。


 私は『希望』の魔法らしい。だけど具体的な内容はわからなかった。緊急事態だっていうのに抽象的なものを任されても、不安しか残らない。



 -



「みんなに何かあった時、私の魔法が何の役にも立たなかったら…」


「…心配しなくていい」

 はっきりと言い切ったがあねに、私はハッと顔を上げる。があねの目は、真っ直ぐに私を見つめていた。優しくて熱い、太陽みたいな目をしていた。


「どんなことが起こっても、あたしが…、いや、あたしたち五人なら、絶対になんとかなる」


「……があね…」

「そうそう、魔法以外にも何かできることないか、作戦会議しようよ~」


 怪我人に歩幅を合わせてくれる二人を前に、私は胸が苦しくなった。

 少し先を歩いていたさふぃとぱあるが、こちらを呼んで待っている。


「ねー、コンビニ行こうよ、今日こそクジ当てる!」

「まーた無駄遣いしてはずれくじ集めですか」

「うっさい!!」


 そうして私たちの放課後は過ぎていった。




 この時の出来事を、その後の私は何度も夢に見た。

 あのバケモノが襲ってきたタイミングで、私がひとりで死んでおけば、みんなにも違う最期があったはずなのに。

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