第6話

 ソファを撫ぜていると会計に呼ばれた。歩いて受付の前に立つ。事務の女の人が分厚い硝子の向こうで僕に目をくれた。


「11755円になります」


 事務の女の人の口から平坦な声が漏れる。僕は目を丸くした。提出していた医療証が彼女の細い指に挟まれて突き返される。


「この自治体の子供医療助成制度では15才から18才までは一割負担になります」


 友達の笑顔を思い出して、背筋が氷を入れられたように寒くなった。僕の小遣いは月何円だったか。財布には今いくら入っていただろう。

 カバンの中を弄り、財布を取り出す。

 確かお父さんが持たせてくれた緊急用の一万円があったはずだった。折りたたまれたそれは財布の隅で縮こまっていた。指先でつまんで取り出して広げ、一万円札をカルトンの上へ乗せる。

 残りの千円と七五五円を払うと、僕の財布はすっかり軽くなってしまった。


「二週間後にまた注射にお越しください。二回目以降は六千円です。後、この薬止めるとリバウンドして、症状が悪化しますので」


 めまいがして、僕はよろめいた。


「すみません、18才以上になったら何割負担ですか」

「三割。一本16000円です」


 かすかにお母さんが僕に塗る泥の匂いが鼻腔の奥で蘇る。

 あの泥は三万円だった。

 視界が動転する。僕はこれから二週間に一回注射を受け続けるのだ。


 いつまで?


 わからなかった。友達のくったくのない笑顔だけが、ただ脳裏に浮かんで消えてくれなかった。

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