​第3話 はじめての体温

熱い。

体が内側から焼かれるようだ。

​彼の指先が触れている首筋から、ドロリとした重い何かが流れ込んでくる。

​それは、暴力的なほどの魔力の塊だった。

​「ん、ぁ……っ!」

​声が漏れる。

拒絶しようにも、体は金縛りにあったように動かない。

​普通なら、これだけの魔力を流されたら廃人になっているはずだ。

でも、私は壊れなかった。

​私の中にある、どこまでも広がる「無色」の空洞。

そこに、彼の漆黒の魔力が吸い込まれていく。

​まるで、乾いた砂漠が水を飲み干すように。

​「……ほう」

​頭上で、彼が感嘆の息を漏らした。

​「これほどとはな。俺の魔力をここまで飲んでも、まだ余裕があるのか」

​彼の手が離れる。

と同時に、嵐のような熱がふっと引いていった。

​私はガクガクと震えながら、シートに崩れ落ちる。

肩で息をする私の顔を、彼が覗き込んだ。

​その表情を見て、息が止まりそうになる。

​さっきまでの凶暴な覇気が消え、どこか憑き物が落ちたように穏やかな顔つきになっていたからだ。

​「悪くない」

​彼は自分の手のひらを握ったり開いたりして、満足そうに言った。

​「体が軽い。こんなに頭がスッキリしたのは数年ぶりだ」

​彼はポケットからハンカチを取り出すと、汗だくの私の額を乱暴に、でも傷つけない強さで拭った。

​「合格だ、リナ。お前は今日から俺の命綱だ」

​命綱。

ゴミと呼ばれた私が、最強の男の命綱。

​その言葉は、どんな褒め言葉よりも重く、私の胸に刺さった。

​「さあ、着いたぞ。ここが俺たちの城だ」

​馬車が止まる。

窓の外には、夜空を突き刺すように聳え立つ、巨大な屋敷が見えた。

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