第2話 魔法陣
扉を押し開けた瞬間、隙間から鋭い光が差す。
初めて感じる外の光に、少し顔をしかめるがすぐに慣れた。
光の方へ。
新たな世界に、一歩踏み出す。
最初に感じたのは、全てを照らす光の雨だった。
上から降り注ぐ光が、正面に長く続く階段を明るく照らす。
石造りの階段を登る。左右に高く伸びる壁に触れ、上を見上げて歩く。
青々と広がる空を、白い雲がゆっくりと流れている。
段々と、景色が増え、世界の広さを認識する。
遠くに、緑の壁のような森がそびえ立ち、世界からここ一体を切り離しているように見えた。
廃墟。
そう表現するのが適切に思えた。
階段を登り切った私の周囲は、瓦礫の山に囲まれていた。また辛うじて壁、と呼べるものがちらほら見えるが、どれも緑のツタが装飾を施し、至る所が欠け、ひびだらけ。いつ崩れてもおかしくなかった。
唯一石部分の基礎だけが規則的に形を残し、何かの建物だったことを示す。
残された基礎の部分をなぞり、ペタペタと残された石の床をたどって廃墟の全貌を把握する。
おおきな城のようだった。ボロボロに朽ち果て、打ち捨てられた主の存在しない城。
私のいた場所は、そんな城の地下の小さな部屋だった。
あてもなく城の跡を歩く。私がいた場所だ。何か残されているかもしれない。
そんな気持ちで歩いていると、ある瓦礫に吸い込まれるように目を奪われた。
遠目には分からなかったが、ぼんやりと光を放つ小さな瓦礫の山。
握りしめていた手紙を離れた床に置いた。鍵も、花も、手紙で包むように内側に入れ込む。光の正体を求め積まれた山を崩してく。
小さい山だったのもあって、全ての瓦礫を撤去するのにそう時間はかからなかった。
瓦礫の山の底、床部分に現れたのは見覚えのある幾何学模様。
すぐに既視感の正体に思い当たる。少し歩いて、手紙を拾った。
手紙の封蝋には、確かに似たような模様が刻まれている。形は少し異なるが、同じ系統の模様だ。
しっかりと見比べるために、手紙をもって床の模様に近寄る。
その瞬間陣から強い光が放たれる。視界を覆う光に目を閉じる。
数秒だろうか。瞼からも感じていた光が消えた。突然なんだったのだろうか。
目を開ける。
本棚だった。正面と左右を取り囲むようぎっしりと本の詰められた棚。
足元には木造のフローリングが広がっていた。
先ほどまでいた場所とは程遠い景色に囲まれる。唯一同じなのは、足元で薄く光る模様だけだった。
「……なぜ?」
つい自分の口からそんな言葉が漏れる。私はこんな呆けた声をしていたのか。と、くだらない思考に意識を取られる暇もない。
あたりを見渡す。
どこかの家の書庫のようだ。扉のある壁以外を本棚が覆う。扉の横にある小さな机の上の蝋燭が部屋中を優しく照らしていた。
急に景色が変わる異常事態のはずだが、私がこの光景をゆっくりみて、最初に感じたのは、懐かしさだった。知らないはずの場所だが、妙に居心地の良さを感じる。
扉の奥を見ることもなく、私は本棚の方をむき、無数の本の並べられた棚の中から
一際古く見える本を一冊、手に取った。
それが、当たり前の行動のように覚えた。私はここを知っているのかもしれない。
手に取った本は、紙の材質も古く、薄黄色に変色してしまってるが、文字は問題なく読めそうだ。
表紙には、『基礎魔法論』と書いてある。
魔法。聞き覚えのない言葉に違和感を覚える。
最初に目を開けた瞬間から、文字も読めた。目の前のものがなにかも認識できた。
それなのに、私という存在の記憶だけがない。
まるでそこだけがはじめから空っぽだったように、記憶から抜けている箇所があるような気がする。この魔法というものにも、似たような何かを感じた。
一ページ、また一ページと淡々と読み進めていく。自分の記憶の穴を埋めるように知識を詰め込む。
どれくらい経ったかは分からないが、本のすべてに目を通した。
内容を要約すると以下のようなことが記されていた。
魔法とは、生物はみな己のなかに持っている魔力をもとに、発動式を作り自然現象を再現すること。それとは別に、その魔力に自らの心からの願いに応じて発現できるものが存在する。
魔力量によって出力に差はあり、 種類によって2種類。 属性魔法、 独自魔法
属性魔法は適正によって大きく6つに分類。 炎、水、風、地、光、闇。
独自魔法は発現するものによって性質が多岐にわたるため分類不可、発現者の魔力により規模の違いは存在するが発現者の数が少ないため未知である。
ページの後ろのほうには自分の属性魔法の適正を確かめるべく、6種類の発動式が記してあった。
早速本の知識を色々試す。
私はまず自分の手紙の模様とそれらを見比べてみた。私のこの部屋に連れてきた摩訶不思議な現象。その原因は間違いなくこの発動式と呼ばれる手紙の模様だ。全てと照らし合わせるが、どれも似てるようで似つかない。足元の陣も該当しそうなものはなかった。
次に生物が持つ魔力。私にも流れているはずのそれを感じてみようと目を閉じる。
…ある。わかる。自分の身体を循環しているそれを私は一瞬で理解した。
何と表現すればいいだろうか。血液の流れを感じるような奇妙な現象。
しかも、その血液はなぜだか自由に動かすことができる気がする。
恐らくこの正体が魔力であると直感的に感じた。
最後に魔法式による魔法の発動を試す。
私は発動式に向かって手を伸ばし身体を流れる魔力を魔法式に込めるように外へ出す。何がおこるかも分からない6種類の魔法式に順番に魔力を流すように触れる。
先ほど私をここに連れてきたの光のように、何か起こるのだろうか。胸のあたりが高鳴るのを感じながらすべての式に触れていったが、何一つ反応を示さない。
やり方を間違ったのだろうか。
繰り返しすべてに触ってみるがなにも発現しない。
しばらく色々工夫しながら試したがどの発動式も一切光ることはなかった。
私の胸の高鳴りは一瞬で収まってしまった。
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