第10話 知の本領
薄暗い洞穴の地面に座り込み、どのくらい時間が経っただろう。
ちーちゃんは長い時間、嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。シノさんは僕がした質問の数々に相当な不信感を貯めているけど、これまで通り聞くのを我慢してくれている。
さっき恩とか言ってたもんな。義理堅い。
それでも聞いておいて、本当に良かった。
ちーちゃんは確かにこの世界の事を沢山知っていた。
システムにも詳しくて、ゲームではお馴染みの、ナビ妖精のような役割も持っているのかもしれない。
流石に騎士団がどの辺りまで来てるか、みたいな生き物の意思が関わるような、流動的な事は分からない。
YESかNO、分からないの3つしか答えられないから、知識を全て引き出せる訳ではない。
一度この大陸の形を聞いたら、木の棒で地面に地図を描いてくれたけど、大分線がヨレヨレでちーちゃんを自信喪失させてしまった。僕は迂闊な質問をした自分を嫌いになった。
でもそっか。やっぱりここはゲームの世界で、僕はログアウト出来ないのか……。
ここから脱出出来る方法は二つ。ゲームオーバーになる事と、ゲームのクリア。
そして……何故か配信機能がオンになっていて、これは変更出来ない、と……。
訳の分からない話に、恐る恐る「配信」の項目を開いてみると――
『現在配信中:視聴者数 1』
――何これ。なんだ? 僕をここに閉じ込めたやつは、何をさせようとしている?
〜〜っ気持ち悪くって仕方ない!!
「あのさぁ、こんなに質問に答えて貰っておいて、怖い顔するのやめてくれる?」
思考が止まる。無意識に歯噛みしていたらしい。
そうだよ、ちーちゃんが悪い訳じゃないのに、僕はお礼も言わずに何やってんだ?
「ご、ごめんね! 本当にごめん……ちょっと考え事しててさ」
『――? ――――!』
その言葉に少し安心したようなちーちゃんを見て、もう今日は自己嫌悪が止まらない。
とにかく今はお礼をと、インベントリの中を確認する。よし一先ずはこれだ――
僕は騎士が羽織っていたマントを取り出して、極振りした力とナイフを使って簡単なリボンを作る。
見た目通り高そうな素材のそれを、ちーちゃんの髪に現代風に編んで結ぶ。
――ふふ、昔からエレの髪のセットは僕の役目だったからね、バリエーションには絶対の自信があるんだ。
「本当にありがとうね。ちーちゃんがいなかったら、僕はここでずっと、何をしていいか分からないままだったよ」
――これでよし、うんうん、また可愛さが増してしまった。
『――??』
「こんなんじゃもらった情報の対価には程遠いんだけどさ、一先ずこれだけね」
僕が、自分の髪で何をしたのか見えないちーちゃんの顔には、はてなが浮かんでいる。
「ちょっとアンタ何やって――――え? か、かわいい……ちょ、ちょっとちーちゃん連れて水場まで行ってくる!」
『――??』
今の姿を見せてあげたい! なんて、言い残し、2人は洞穴から出ていく。手を繋いで嬉しそうな姿が微笑ましい。
そして、洞穴に1人になった僕は近くに落ちている死体に改めて手を触れて、心の中で『収納』と唱えて回収する。
やっぱりか……そうだよね、僕をこんな世界に閉じ込めるような犯罪者が、マトモな倫理感なんて持ってるわけないもん。
さっき回収出来なかったのは、僕が心の底ではアイテム扱い出来ていなかっただけか。
そして、今そんな良識は心底邪魔になったから回収出来た、と。
だってインベントリに入れておけば絶対役立つもんな。
魔物に襲われた時に出して、囮にしてもいいし……そうだな、咄嗟の時に後頭部から顔だけ出せば、背後からの攻撃を防いだりも出来そうだ。
人間の体から人間を出して、恐れない人間なんていないと思うから。
身体の痛みは何かの不具合かと、軽く考えてた。現実では当たり前の事だし、深く考えていなかった。
設定したやつも、僕が安易にゲームオーバーを選ばないように、という軽い考えだったのかもしれない。
――何考えてんだよ、僕にとっての最大の脅威はこれじゃんか。
今まで幾度となく死ぬ寸前を経験してきた僕の脳は、間違いなく「死」を正確に認識する。脳が死と判断して、果たして僕の身体は無事でいられるのか? こんな……死があまりにも近い世界で……?
なんでだよ……なんでこんな事に……? 僕は今、本当に幸せなんだ。仲間達と馬鹿な事して過ごす日常が大好きで!
――ふざけんな、死ぬ事が出来ないのなら……たとえ何をしてでも、必ず生き残ってゲームクリアをしてやる――絶対に!!
名前:ユウ
種族:人間 Lv10
クラス:プレイヤー
HP:41 MP:40
力:42 防御:3
魔防:2 SP: 36
スキル:無し
名前:シノ
種族:人間 Lv3
クラス:精霊術師
HP:11 MP:35
力:4 防御:5
魔防:8
スキル:契約破棄
メニュー画面 ×
インベントリ スキル
ステータス パーティ
ゲーム 録画/スクリーンショット
配信 掲示板
オプション 国力/警戒度 17:23
【TIPS】
『ストーリー』
この世界の人間は、圧倒的な力を持つ『魔族』に支配されている。
その絶望の中、歴史上初めて、魔を祓う力を持つ『神聖武具』の適合者が8人同時に現れた。
これは“最初で最後の人類解放の機会”
生かすも殺すもプレイヤー次第
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